第56話

気にせず電話出てください、と声をかけると、



「実は、彼なの。あとで掛け直すから平気よ」



さっき、一瞬見えた闇を感じさせない笑顔で彼女は言った。



「リカちゃんって、彼氏いたんだ」


「まあ見た目こんなんだけど、もういい歳だからね」




彼女の隠れファンである男子生徒たちが聞いたら悲鳴をあげるだろうな、と内心思ったが口には出さない。



アラサーの彼女なら、もう結婚していたっておかしくないのだから。





その時ふと、思った。




私はこのまま誰かと恋愛することも、ましてや結婚することもなく死んでいくのだと。

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