1章

第2話

1話:千冬の秘密


「…え、ちょっと待って。さっきの話は本当?」

春風が桜の花弁と共に舞い散る今日この頃、「わーきれい!」と、感嘆の声をあげる…事はなく、驚きと混乱でいっぱいになっていた。

鈴鳴千里 15才。

この度高校生になったばかりだ。

「うん。本当。」

こくりと頷き、若干無気力そうな雰囲気で、千里の隣を歩くのは早川千冬だ。

幼なじみであり、さっきの混乱の原因を作った張本人でもある。

時は数分前に遡るーー


「…やったー!念願の早川学園!」

千里は目の前の建物を見て興奮していた。

それもそのはず。

中学の頃からずっと憧れていた高校だったから。

「まさか千冬も一緒だったとはね。」

そう言い、嬉しそうに隣を見る。

「…うん。良いよね、早川学園。部活も豊富だし、学食もあるし。」

心做しか目がキラキラしている。

黒マスクをいつもつけているので、表情は分かりづらいが、幼なじみの千里には別に気にならない事だった。

「…結構詳しく知ってるじゃん。やっぱりオープンスクール行ったから?」

「それもあるけど…ここ、俺のじいちゃんが学園長だからさ。何回もーー…千里?」

急に黙った千里を不思議そうに見る。

千里はーー固まっていた。

あんぐりと口を開けている。

千冬を見たまま、驚きで声もでない、と言う顔で。

「…あれ?言ってなかったけ?…ごめん。」

申し訳なさそうに見てくる千冬に千里は精一杯のコメントを返す。

「…はぁぁ?」


と、言うことで、千里は喫驚の声を上げ、今に至る。

何事か、とジロジロ見てくる人達をかき分けながら、千冬の手を取り、木の端っこに寄る。

「…え、っと。憧れの学園の校長が、千冬のおじいちゃん…?まじか…。」

「…ごめん。また言ってなかった…」

"また"と言うのは、千冬は"情報遅め男子"だからである。

これは千冬特有で、伝達が良く遅れるのだ。

例えば、千冬が花火に誘えば終わっていたり、など。

そのおかげか、私はしっかりした性格になったと思う。

「…別に良いよ!悪いことじゃないし。」

「ありがとう。」

そんな事を話していると、

「…おお!千冬!ここにいたんじゃな!」

元気で、少ししわがれた声がし、振り向く。

そこには、白髪のおじいちゃんが手を振ってこちらに歩いてきていた。

「…おじいちゃん。」

ほのかに嬉しそうに手を振る千冬。

「…あ、」

そんな千冬を見ながら、千里はおじいちゃんと言われた人の顔を見る。

その人は、千里も見慣れた人だった。

「…そっちは千里ちゃんか。どうりで見た顔だと思ったわい。」

ガハハと豪快に笑う。

千里と千冬は幼なじみだ。

お互いの家族なんて、数え切れないほどあっている。

家族ぐるみで仲がいいとはこの事だ。

「ようこそ、我が学園へ。」

ニコニコと愛想良く笑っている。

まるで大きくハグするように両手を広げている。

「…宜しくお願いします!」

千里は口を開いて笑った。

これからの楽しい生活に期待を膨らませて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る