第22話

モノローグ


ハッと我に返る。

ハァハァと息が少し荒い。

「……これが、貴方の記憶よ。前に話した様に、貴方はタンスの角に頭をぶつけたけれど、死んではいないわ。それと、補足だけれど貴方の飲んだお茶には毒が仕込まれていたわ」

後ろで「毒!?」と月の悲鳴に近い驚きの声をあげた。

その反対にリヒトは落ち着いていた。

「毒…ですか。”優しさには裏がある”って奴ですね」

「…あ、甘い蜜には毒がある、でしたっけ」

と、哀しそうにリヒトが話す。

「毒と言うと、語弊があるわね。正確に言うと毒ではなくて、麻酔ね。……曼陀羅華って知ってるかしら?それよ」

と黄泉が補足説明をする。

「多分アイツ…父さんは万が一、俺が抵抗しない為に入れたんだと思います。」

がめ煮と共に用意されたお茶をジッと見ている。

「母さんは…。父さんに言われただけだと思います。…俺がそう信じたいだけだけど。」

リヒトは話す。

まるで、自分に言い聞かせるように。

黄泉達は静かに話を聞く。

黄泉が口を開いた。

「では…。これで貴方の過去は見たけれど、……本当に良いのね?今、断らないともう二度と戻れないわよ」

黄泉が念を押すように話す。

リヒトの目をジッと見つめる。

「俺は…きっかけは、家から逃げたいと言う願望からだったけど…。元々、どんな理由であれ、何があっても此処で働きたくて。…腹括って決意して来ましたから」

ニッとリヒトは笑った。

決意して、働きたいと言う気持ちが溢れた笑いだった。

此処へ来て初めてリヒトの笑顔を見た気がする。

その熱意をもうとどめる者は誰もいなかった。

「……じゃあ、正式に社員になってもらう為に、儀式を行いましょう」

黄泉は立ち上がり、がめ煮やカップなどをキッチンにどける。

月と陽は、黄泉に指示され机や椅子を奥へずらす。

一体、これから何が始まるのだろうか。

「儀式?」

リヒトが首を傾げる。

月と陽も不思議そうに見ている。

見れば分かるわ、と黄泉がにっこり笑い、リヒトの前に立つ。

「Grim Reaper(死神)……」

黄泉がそう呟いた瞬間、黄泉の周りに金色の魔法陣ができ、輝いた。

眩しくて周りはいっせいに目を瞑った。

数秒後、ゆっくりと目を開ける。

まだ、魔法陣は少し輝いている。 「「「………!!!」」」

黄泉以外の3人は驚く。

黄泉の格好が変わっていたから。

黄泉をすっぽりと覆い尽くすフード付きの黒いマント。

骸骨のお面を顔に付けている。

一瞬、誰だか分からなかった。

驚いている3人を他所に、黄泉はスッとお面を外す。

「これは正装なの。こう言う時はこの格好をする決まりなのよ。…これでも私、死神だから」

照れた様に黄泉は笑う。

リヒトがびっくりしている。

これには、陽と月は驚かない。

黄泉が死神と言う事など、出会った頃から知っているのだから。

「ふふっ死を迎えるのだけが仕事じゃないのよ、死神は。」

私のように、と黄泉が面白そうに笑う。

「さぁ私言をしている暇はないわ。ーー始めるわよ」

カポリ、とまた面を付ける。

すると、黄泉は懐から短刀を取り出した。

それをーーピッと左手の人差し指に当て、切る。

(あぁぁぁぁぁぁぁ〜〜!)

月が声にならない悲鳴をあげて青ざめている。

陽が月の口を塞ぐ。

ポタリと1滴の血が魔法陣の真ん中に落ちる。

魔法陣の色が紫色に変わる。

黄泉は手に持っているナイフを拭いてから、リヒトに手渡す。

「青山くんも切って」

リヒトはゴクッと息を飲む。

すうっと息を吸うと、指を切る。

ポタリ。

血が落ちる。

魔法陣は、青色に変わったかと思うと、真ん中から”リヒト”が出てきた。

半透明の、リヒトを型どったそれ。

後から聞いた話だと、それは魂を具現化したモノらしい。

「「「えっ…」」」

3人がまたまたびっくりする。

「我の血を捧げに、魂を切り落としたまえ。御身を持って、死とする。……力よ、目覚めたまえ。」

何時もと違う口調で、黄泉が呪文を唱える。

すると、『鎌』が、空中から徐々に現れた。

すべて現れると、黄泉はそれを手に取る。

その途端、黄泉は”リヒト”の首を切った。

ツプンと言う音と共に、白い眩い光が現れたかと思うと、魔法陣が消えていった。

”リヒト”も、消えていた。

「……終わったわ。お疲れ様。…あぁ、血を止めた方が良いわね。絆創膏を取ってくるわ」

血が垂れているリヒトの指先を見て、黄泉はキッチンへ向かう。

「あ!黄泉さん!!僕が行きます。黄泉さんも切ったんですから、じっとしてて下さい!」

タタッと月も駆けていく。

リヒトはそのまま呆けていた。

それを見ている陽が突っかかる。

「おい!お前、いつまでぼうっとしてるんだよ。黄泉にマネキンにでもされたか?」

相変わらずの軽口である。

「もう。陽ったらそんな事言わない。…後で私の元に来なさい」

(……あ、陽が怒られる予感…)

月はそっと手を合わせた。

「それより、はい。絆創膏」

手を貸して、と言ってペタリとリヒトの手に絆創膏を貼る。

「あっありがとうございます」

リヒトが照れくさそうにお礼を言う。

この時、月が妬みの視線をリヒトに送っていた事を陽は、忘れないな〜と思っていた。

「それと、はい!これ。このカフェの制服よ」

白のシャツ、紫色のズボンにネクタイ。

それに靴下、ローファー。

「これで1式は揃ったわ。後で部屋を教えるわね。足らない物はこれから揃えていけば良いわ。」

ニコッと黄泉は笑う。

「これからよろしくお願いね……リヒト」

と言って黄泉が手を差し出す。

「……はい!よろしくお願いします、黄泉さん」

リヒトは笑って、固く手を握った。

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