第3話

第1話:美味しいハチミツレモンの作り方


トントントン、と規則的に切る音が聞こえる。

黄泉は今、ハチミツレモンを作っていた。

キッチンにたくさん転がるレモンを、輪切りにして、ビンに入れていく。

近日、『魔界フェス』が開かれる。

それに参加するために、たくさんのハチミツレモンを作っていたのだった。

魔界フェスは、色んなご飯やお菓子、小物を作って売る、魔界全域で盛り上がるイベントだ。

「黄泉さーん!こっち掃除終わりました。他になにかすることないですか?」

キッチンに顔を覗かして、尋ねるのは月。

ここーーカフェ・死神の従業員の1人だ。

「特にすることはないわね。…そうだ、これ味見してくれないかしら?」

そう答えるのは黄泉。

ここのカフェの店長だ。

「…!良いんですか!?」

嬉しそうに月は答え、食べようと黄泉の元へ向かう。

が、

「…お、黄泉美味そうなもん作ってんじゃん!1個くれ!!」

目の前でとある人物が先にハチミツレモンを口にする。

その名はーー

「陽!!僕が先に食べようとしたのに…!」

陽。

もう1人の従業員。

「あ?どっちでも良いじゃねーか。」

「ひっ」

ギロっと睨まれ、すごむ月。

「もう、喧嘩するならあげないわよ。」

レモンを入れたビンを持ち、陽達から少し遠ざける。

「陽のせいで食べられなくなったじゃないか…」

しゅんっと月は悲しそうに下を向く。

それを見た黄泉が呆れた笑みを浮かべて、

「…陽は掃除の続き!月は味見して。」

と言った。

その途端、パァァとさっきの悲しそうな表情がまるでなかったかのように明るくなった。

「…チッわーったよ!」

面倒くさそうに陽はキッチンから離れた。

「…じゃ、じゃあ食べても良いですか?」

待ってましたとばかりにキラキラと目を輝かせている。

「良いわよ、どうぞ。」

月の目の前にビンを差し出す黄泉。

レモンを摘む月。

まさに食べようとした、その時。

ガチャり。

タイミング良くドアが開く音がした。

「…!お客様だわ。」

「…え、」

黄泉と月はドアの方を見る。

「…悪いけど月、レモンはもう少し後でね。」

そう言って玄関に黄泉は向かっていく。

「…は、はい…」

月もレモンを置いて、黄泉を追いかけた。

なんとも不遇な月である。

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