第14話

10話:A happy day:Saturday 大手毬 まほろ


ある夏の真っ盛り。

俺は遊園地のバイトをしていた。

凪は休みだ。火曜日しかしないらしい。

他のバイトを結構していた様で、他のバイト者も多くいる為、1日でもOKされたと言う。

案外優しいバイトである。

これも、《今日》の彼女に関係しているのだろうか。

今の所、1日に1人しか出会っていない。

本当に、1日だけの彼女達らしい。

…なんて、そんな事を考えながら地面を穿く。

人が多く歩く為、ゴミは溜まる。

当たり前の事だが、広い園内ともなるとどうにも考えてしまう。

「…あの、少し良いですかッ?」

「…はい?」

声をかけられ、前を向く。

そこには愛らしい女性が立っていた。

水色の目がキラキラ輝いている。

水色の短い髪が揺れ、クンっと顔が近づいた。

サンダルを履いた足を伸ばしている。

「ここの、地獄ジェットコースターに行きたいんですけど、分かんなくて。」

テヘッと恥ずかしそうに話す。

手にはマップを持っている。何故、分からないのだろう。

「…マップを見ましたか?」

「あは、すみません!そうなんです。私、地図に疎くて。…連れて行ってくれませんか?」

ジッと俺を見つめる。ほんのり頬が染まっているのは気の所為だろうか。

「良いですよ。それも仕事の内ですし。」

「わー!ありがとうございます!助かったぁ。」

本当に安堵した様に胸を撫で下ろしている。

この人…大手毬まほろは、明るい人だった。

人懐っこく、人に見境がない。

裏表なさそうだ。

「私、ここに来るの初めてで。親切な人で良かったですッ!ありがー…キャッ!」

まほろの体勢が崩れる。

スローモーションの様にゆっくり後ろに倒れる。

そこに急いで手を回し、何とか倒れるのを防いだ。手を置いている腰あたりが熱い。

ハァとお互い肩で息をしていた。

地面に目を向ける。

地面が少し凹んでいた。そこに躓いたらしい。

「…すみません。…はわっ!」

立ち上がろうとし、また転けそうになっている。また、手を伸ばしたが、間に合ったものの自分も転ける。

受け止めたので、体が密着している。

心臓が大きく跳ねた。俺の心臓の音が、彼女に聞こえないか気になって仕方ない。

庇護欲が狩られる。

「…えと、本当に…すみません。」

「…いえ。」

お互い恥ずかしく、変な空気が流れる。

「…怪我してるね。一旦事務室行こう。」

怪我をほうっておけるわけなく、立ち上がる。

しかし、クンッと袖をつまみ、止められる。

「…ここで、良いよ。」

「…じ、じゃあここで手当するね…?」

「…うん。」

彼女は目を逸らしたままだ。

緊張感とよくわからない感情がごちゃ混ぜになりながら、とりあえず救急箱を取りに事務室に行った。


まほろははぁぁぁ、と息を全部吐き出すように深いため息をついた。

「…心臓、うるさいよ。」


「…おまたせ。」

救急箱を持ってき、また地面にしゃがむ。

「足出して。」

「…ん。」

白くて細い足が差し出される。

ポンポンと綿の布で消毒し、絆創膏を貼った。

ドキドキと心臓がうるさく、痛い。

高揚しているのが分かる。

彼女の方は耳まで赤くなっている。

離れた方が良い。人も…土曜日だ、沢山いる。

なのに…体が動かなかった。

もう少し…もう少しだけ、触れていたかった。

「…あのっ!」

「はいっ!?」

いきなりの大声、発言に思わずこちらも声を出す。

「…私遊園地が好きです。ジェットコースターとか、強めのが好きです。だから…そのっずっと一緒に遊園地に行って欲しいです!…駄目…?」

一気に想いを伝え、不安と期待の眼差しで見ている。

「…勿論…。遊園地なんて、何時でもいっぱい連れて行ってあげるよ。」

「ホントに!?」

嬉しそうに、今日一目輝いている。

「じゃあ、宜しーー」

「何やってるんですかー?朝日さん。し.ご.と.中.ですけど?」

同僚のスタッフだ。何も言わずとも怒りが丸わかりな程である。

「…あっ。」

「…ごめんね、朝日君。」

ペロッとあざとく舌を出している。

誤っているが、顔は嬉しそうだ。

「…周り見てください。大勢の人に見られてますよ。」

スタッフが親指で指さす。

「「……。」」

2人は赤面した。

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