第13話
「僕も陽菜紀と約束してたんですよ。19:30に」
さすがに10分の間無言と言うのが苦痛だったのか、鈴原さんが苦笑いで説明をくれた。
「あ、僕、陽菜紀とはバイト仲間で。セントラルホテルってご存じですか?あそこのレストランのホールスタッフだったんです、二人とも」
セントラルホテル、と言えばこの辺でも有名な高級ホテルだ。
華やかな陽菜紀が選ぶ職場だと思えば違和感はない。
「その頃同じ年代のグループが出来上がってて。何せ僕たちは年齢も一緒なので気が合ったんです」
同い年……?
「あ、私もです……私も陽菜紀とは幼馴染と言うか、同い年で」
年齢を知って何故だか急に親近感が湧いた。
「そうなんですね」
鈴原さんは人懐っこい笑顔でにっこり笑い、程よく日焼けしたその肌から白い歯が覗き見えた。爽やかな感じだ。清潔感があるって言うのかな。
その笑顔は私の警戒心を解くのに充分だったと思う。
「私あまり陽菜紀と写真撮らないから。ほら、あの子SNSにアップするため写真をよく撮るでしょう?」
「ああ、僕も昔は良く陽菜紀と写真を撮りましたよ。まだあるかなー…確か古いデータをそのまま移行したからある筈」と言って鈴原さんの指はスマホの画面を滑る。
きれいな指だ
そう思った。
細くて長い―――
「あ、あった」
鈴原さんはまるで小さな子供が宝物を見つけたように顔を輝かせて、スマホ画面を見せてきて私もその画面を覗きこんだ。
それは数年前に撮られたものだろう。髪型やメイクはあまり変わらないが若干幼い陽菜紀と、そして鈴原さんが揃いのホテルの制服姿で、笑顔でピースサインを作っている。
「本当に仲良しって感じですね」
「まぁあいつとは趣味が合ったんで。と言っても“これ”ですが」
と鈴原さんはグラスを煽るジェスチャーをして、
ああ、陽菜紀の飲み友達でもあったのか、と妙に納得。
私は下戸と言う程ではないけれど陽菜紀に勝てたことはない。まぁ勝とうと思ったこともないけれど。
「今日もね、突然呼び出されて…それこそ隣のあんちゃんに『ちょっとワインが切れちゃったから買ってきてー』って言う感じで。俺は便利屋じゃないっつの」
と最後の方は口を尖らせる鈴原さん。
その仕草がどことなく子供っぽくて何だか可愛く思えた。
そしてそのきれいな指をまたもスマホに滑らせて
「あいつのSNS、15分ぐらい前に投稿されてる。ほら」とスマホ画面を見せてくれて
確かに時間は19:16となっていて、その時間表示の下に陽菜紀がほとんど無くなったワインを片手にちょっと可愛らしい仕草で頬を膨らませ
“親友が来るって言うのにワイン切らしそ~。今日は飲むって決めたのに!ヽ(`Д´)ノプンプンあ、でも配達員が届けてくれるって~♥スズ、いつもありがと♥”
と言う投稿がされていて私は目をまばたいた。この『スズ』と言うのは鈴原さんのことだろう。
どうやら陽菜紀が鈴原さんを呼んだのは間違いないようだ。
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