第2話
「ペースってもんがあるんだよね」
隣を歩いていた陽菜紀が突如として言った。私は道路の白線の上を慎重に歩いていたところで、危うくはみ出す所だったが何とか修正した。
それは当時流行っていた遊びの一つだった。
小学校の低学年に流行る遊びなんて大抵くだらないし、意味なんてそもそもない。
けれど流行っていたから。だから私も何が楽しいと問われれば答えられないが、その流行の遊びに夢中になっていた。
それなのに、陽菜紀はその遊びを一度二度しただけで、すぐに飽きてしまったのか、それ以降列を作って白線の上を歩くことはなかった。
後ろを振り返ると、長い、長い……四角模様が道路に浮かび上がっていた。それは途切れ途切れ存在している。
また―――だ……
このときいつも感じていた。陽菜紀の型破りと言うか、奔放な性格は形に収まることがない、と。
いつも先生や親の言うことが正しくて、その発言や指示にはちゃんと意味があって、だから私は道を踏み外さないように慎重に歩いてきた。
けれど陽菜紀と居ると、突然横から張り飛ばされその道から逸れてしまうんじゃないか、と。けれどそれは私にとって不快なことではなかった。
むしろそう言うはみ出したいと言う秘めた欲求を時々つついたのだ。
その日も四角い形をした白線を見て何となく思った。
「聞いてる?ユウコちゃんの言葉。ヤマダくんがあたしを好きだって言ってたけど、あたしはまだヤマダくんを好きじゃないんだよね。
だからあからさまにくっつけようとされると迷惑って言うか」
陽菜紀は顔を歪めて吐き捨てるような物言いで言い切った。
当時のヤマダくんは、クラスの人気者で憧れる女子も多かった。
ユウコちゃんと言うのは当時同じグループにいたちょっとお喋りな女の子だ。噂好きで、ゴシップ好き。
確かにヤマダくんはことあるごとに陽菜紀にちょっかいをかけていた。
でも私は知っていた。ユウコちゃんが言った通りヤマダくんは陽菜紀のことが好きだって言うことに―――
だってヤマダくんは陽菜紀のこといつもずっと見てる。何故分かったかって?
だって私はヤマダくんのこと見てたから。
「ほら、ちゃんと歩かないとはみ出しちゃうよ?」
陽菜紀は私の腕を取り、白線へと促す。
私は足元を見た。はみ出しそうになっていた私の足はちゃんと白線内に収まっている。
陽菜紀は私を良い意味で解放してもくれたが、修正もしてくれた。
そんな陽菜紀に最初から勝とうなんて思ったことがない。
「うん」
私は頷いて再び白線の上を歩いた。
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