《今日》の彼女 ーsecondー

抹茶 餡子

竜胆の章

竜胆の章 闇夜の幕開け

竜胆の章:闇夜の幕開け


「…よっと…これで任務完了だなっ」

スタッと軽くゴールドは地面に着地した。

それと同時に手に持っていた鎌が消える。

「今日も無事に終わって何よりだわ。」

腰に手を当て、ふーっと安堵のため息を付くのはツンデレポニテガール。

通称、ツンデ。

「肉!肉食いに行こうぜ!」

能天気にはしゃいでいるのは、使い物になる(多分)犬。

獣人のような見た目をしているのが特徴の死神だ。

「…皆さんお疲れ様でした。ですが、ゴールド。戦闘狂なのは知っていますが、わざわざ時間をかけて相手を倒さないでください。…時間の無駄です。それからー」

「…あーはいはいっ分かったから!うるせぇっ!」

丸眼鏡こと、生真面目な丸眼鏡は、すぐに反省点をだし、同時に仕事完了の報告をしている。

「…うるさい…いっちゃん…まーちゃん…本の邪魔…」

ゆったりとした口調で話すのは不思議。

無表情だが、以外に感情豊かでテンションが高い時は高い。

絶対顔に出ないが。

そしていっちゃんとはゴールド、まーちゃんとは、丸眼鏡のことである。

彼女は人を独特のあだ名で呼ぶ癖がある。

「…ごめんね、不思議。さっさと戻りましょう」

何故かツンデが謝り、不思議の頭をそっと撫でる。

「…ん…」

短く不思議は返事をすると、本を閉じ黒い影を纏わせ、消えた。

コツン

その時、何かが落ちる。

不思議が落としたようだ。

それをゴールドは拾い上げ、じっと見つめる。

その様子をツンデは不思議そうに眉を寄せる。

「…?ゴールド?何してるの?早く帰るわよ」

それでもゴールドは動かず、曖昧な言い方で話す。

「…いや、なんか急に思い出してさ…」

ゴールドは他の者に見せないように、ギュッと拾い上げた何かを握った。

「…何をよ」

いつになく焦れったいゴールドに困惑と苛立ちが少しある返事のツンデ。

「…ここ、私達が試験で出会ったとこだったなって」

ゴールドは辺りを見渡しながら立ち上がる。

砂漠のような砂埃の舞う、広い高原地帯。

遠くにも近くにもあちこち、破壊されたままの建物らしきものが建っている。

その光景はさながら遺跡のようだった。

「…そう言えば」

「そうですねぇ」

ツンデと丸眼鏡は顔を見合せ、頷く。

「肉食いに行かねぇの?…ってぇっ」

…犬だけは、空気を読まないマイペースな一言を放った。

ツンデが無言で一発犬を殴り、犬の話は終了する。

だが、過去にそれぞれ想いがあるようで、3人の顔は重苦しい。

少しして、ゴールドはふっといつものように笑う。

「…今でも脳裏から離れねぇ。…アイツのこと」

「…そうね」

「…あの人の事は忘れた事はありません…」

ツンデが静かに呟き、暗い顔で丸眼鏡が頷く。

「……。」

犬は何も話さず黙っているが、いつになく真面目な顔つきだ。

…これは死を司る死神達の物語。

…誰も知らない過去の物語。


***


「…忘れ…物…」

しばらくして、自分達も帰ろうと思っていた時。

不思議が落し物したと言って戻って来た。

「あら。不思議、物落としたの?どんな感じの?」

ツンデが尋ねる。

「…えっと…指輪…金…の…」

不思議はいつものようにゆっくりとした口調で言うが、どこか焦っているようだった。

(もしかして…)

ゴールドはすぐにさっき落ちていた物だと気づいた。

「ほれ、これだろ?」

親指と人差し指で弾いて渡す。

「…大切な…物…粗末に…しないで…」

不思議はそう言いつつも、ありがとうと言ってまた戻ろうとする。

「ちょいちょい待てーい!!」

ゴールドが両手を前に出し、止める。

「…なに…?」

不思議は面倒くさそうに顔をしかめる。

用は終わったんだから早く帰らせろ、と言う目だ。

ゴールドはすぐ終わるから、とある仮説を立てた。

「いや、それ拾った時見えちまったんだけど、指輪の裏に彫ってあるその英語の文字…似たようなやつが私のやつにもあるんだ」

ほら、と付けてあるブレスレットを外し、裏を見せる。

これは私の憶測だけどさ、と話を続ける。

「もしかしたらが何か残しているのかもしれない」

そういった時。

全員の顔色が深刻なものに変わった。

「アイツって、まさか」

犬が信じられないように言う。

「…ここと言い、その英文字と言い…今日は何かあるのかしら」

とツンデ。

「そうですね…」

ツンデの言葉に賛同するように、丸メガネは頷いた。

「じゃあ…これ…何かの…暗号ってこと…?」

不思議が憶測を立てる。

「かもな。手分けして探してみようぜ」

ゴールドの言葉に、全員頷いた。

かくして、過去と暗号を解くことになるのだった。


***


(…まず…お互いの…物を見せる前に、周りに手がかりが…ないか…調べることに…なったけど…)

不思議はしゃがんで、瓦礫の跡の砂埃を手で叩き落とす。

特にこれと言った物はなく、「先にお互いが持っているものを見せた方がいいのでは」と思ったが、すぐに首を横に振って否定した。

左手親指に輝く指輪を見つめる。

私と同じように、皆もから貰った物なら、それは自分達の過去に直結する物だ。

五柱の皆は何かしら重い過去と名を捨てて、今を生きている。

きっと…すぐに話したくない、見せたくないはず。

少なくとも、不思議はそう思っている。

例え、過去に同じ人と繋がりがあろうとも。

「…このが…出なくなってから…何年…経った…かしら…」

嫌でも、何かあると気づいたなら行動しなければいけない。

知らなかった頃には戻れない。

不思議はゆっくりと目を瞑り、自身の幼い頃へ記憶を辿らせた。

これは自由を求めた、ある少女の物語。

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