異世界に転生したら聖獣使いになりました

@eriko-34

第1話私が異世界に転生!?

最初は犬か猫だと思ったんだ。

川面から時折出る濡れた毛のようなものが見えた時、間違いなくそれが生き物だという確信はあった。

視力は人よりもかなりいい方だったしね。

だから、持っていた竹刀を使ってなんとかそいつを助けようとした。

自分でも本当に馬鹿だとは思う。

真冬だというのに。

川は決して浅くも狭くもないというのに。


無理に橋の上から身を乗り出した私は、お約束のように川に落ちた。




『しかし、その馬鹿さは嫌いじゃない。』




なんとか目標に手を伸ばし、その腕に抱きしめる。

よかった、流れが緩やかだからまだなんとか浮ける。

しかしこの水温じゃ私の体力が持たない。

日は沈みかけ、街灯がないと川の様子なんてわからないし。

「うっ・・・」

それに、岸まで泳ぐには手がふさがっているせいでかなり不自由だ。

右手には竹刀。

そして左手には・・・


「・・・?」


そこで私は気付く。

自分が左手に抱えたそれは、犬でも猫でもない・・・もっといえば、そいつが今まで見たことのない動物だということに。

「なんなのこれっ・・・わぷっ!?」

一瞬気がそれてしまったのが運の尽きだったらしく、私は見事に足を捻ってしまった。

がぽがぽと間抜けな音を立てながら沈んでいく身体。


せめてこいつだけはと、私は左手を上に掲げ・・・・・・

そのまま、気を失った。




『気に入った。お前は僕のものになれ。』




・・・・・・頭の中で、誰かが私にそう言った。




「・・・ここどこだ・・・?」

気が付いたら私は布団の上に寝ていた。

川に飛び込んだせいもあって、全身ぐしょぐしょだというのに・・・

「・・・そうだ!犬!?猫!?あいつどこいった!?」

上半身を起こして周りを見渡せば、そこはどうやら寺の中のようで、もしかしたら通りすがりのお坊さんかなんかが助けてくれたのかもと一瞬考えたが・・・

「いや、フツー救急車だよね。」

『お前は動物を救急車で運ぶのか。』

「!?」

てっきり一人だと思ってたから恥ずかしい。

しかし、思いっきり独り言に突っ込んできた相手の方を反射的に向いてしまうのは、私の持ち前の好奇心のせいだろう。

それでも、薄暗い部屋の中では声の主らしき姿を捉えることができないのだが。

「・・・貴方が私を?」

声だけ聞いても男か女か判断ができないが、少なくとも若い人なのだということはわかる。

『ああ、そうだ。』

その人がそう答えて間もなく、私の膝に何かが落ちた。

・・・いや、落ちたのではない。

多分、乗ったのだ。

「さっきの・・・?」

きっと、あの動物だと察した。

しかし、あろうことかその動物と同じ角度から、例の声がしたのだ。

『僕はキリ。五聖獣の中央を守護する者。先程は助けてくれてありがとう。』

「・・・・・・。」


はい?


そのときちょうど、雲が晴れたのか月明かりが部屋に差し込み、膝の上の動物の正体が露わになる。

七色に輝く美しい毛は、やはり私の記憶を探っても、見たことのない動物のそれだった。

「貴方は一体・・・?」

『"麒麟"・・・そういえば少しはピンとくるだろうか?』

「きりん・・・」

改めて口を動かして喋るそいつを見てみたけど、決して首は長くないし、おしゃれな模様もない。

念の為にその体を撫でてみた。

『なるほど。この世界には神獣の類の逸話がないのか。』

「神獣・・・?貴方、神様なの?」

だとしたらここは神社か。

『まあそれに等しい力は持っているな。尤も、今は大分弱まっているが。・・・しかし、お前思ったより驚かないんだな。』

「夢だと思ってるから。」

『馬鹿か。これは現実だ。』


バシンっ


思いっきり頬を叩いてみたが、普通に痛かった。

『馬鹿か。』

「否定はしない・・・。」

『しかし、その馬鹿さは嫌いじゃない。・・・いや、むしろ僕はお前を気に入った。』

「わっ!?」

ストン、と布団に押し倒される。

ぬいぐるみぐらいの大きさのくせになんて力だ・・・。

『お前、僕と取引をしないか?』

「取引?」

『ああ。お前には僕の力を取り戻す手助けをしてほしい。しかし、僕の力が完全に戻ったら、お前の願いをなんでも3つ叶えてやろう。』

「力を取り戻す・・・?何故?どうやって?」

『一辺に質問をするな。まあ答えてやるから落ち着け。』

そいつは・・・キリは、私の顔に近づき、額にそっと触れた。

次に、私の頭には様々なヴィジョンが浮かんでくる。


麒麟、青龍、朱雀、玄武、白虎・・・。


聖獣。


仲間。


「・・・・・・。」

『それらは、お前の住んでいるこの世界とは異なる場所に存在するものだ。・・・僕達聖獣は、現在武器に宿り、主と共に共存し、世界の秩序を護ってきた。』


しかし、それぞれの聖獣の主は世界中を探せば必ず見つかるのに対し、キリの主になれる器はなかなか生まれなかった。

『もともと僕だけは聖獣の中でも特殊でね。主探しに困っていたんだよ。・・・もう、彼此50年は探し続けた、かな?』

「50年・・・。」

『そうだ。・・・それだけ探し続け、ようやく気付いた。僕は恐らく、武器に宿れる存在を知る人間を主にできないのだと。』


しかし、50年一人で過ごしてきたキリは力の衰えを感じていた。

『一刻も早く、主を探さねばならないと思ったよ。・・・そこで、僕は残り少ない力を振り絞って、異世界へ主を探しに来たんだ。そして、お前と出会った。』

「・・・・・・。」

『悪い話じゃないと思うんだ。寧ろお前には都合のいい話だと思うんだよ。・・・どうだろうか。』

なんでも願いが叶う・・・3つも・・・。

「・・・それで、どうやって私はその条件を果たせばいいわけ?」

『僕と一緒に僕の世界に来てもらう。そこで、残りの五聖獣・・・いや、正確には四聖獣の主を見つけ出し、共に戦ってほしい。お前が強くなれば、僕の力も強くなるんだ。』

「その仲間はどうやって見つけるの?」

『戦えばわかるさ。・・・必然的にな。』

「でも異世界に行くって・・・私、学校とかあるんだけど。」

『大丈夫だ。五聖獣が揃えば、異世界へ行くだけではなく、時間さえも超えることができる力が手に入るだろう。お前との契約終了時、お前が川に落ちる前の時間・場所に戻すことだって可能だ。』

「なるほど。」

それなら、こんなにおいしい話はないだろう。

「わかった。キリ、協力するよ。」


だって、私にはどうしても叶えたい願いがあったから・・・。


『それでは早速準備に取り掛かるか。・・・セツナ。』

「私の名前・・・知ってるの?」

『勿論だ。先程持ち物を見させてもらったからな。』

なるほど。

「で、準備ってなに?」

『簡単にいってしまえば着替えと旅の支度だ。一度お前の家に行こう。』

「あ、そうだね。・・・・・・行かなくちゃだよね。」

『?・・・・・・あぁ、では行くぞ。僕にしっかり掴まっていろ。』






転がっていた荷物を持つと、キリを抱き締める、すると、間もなく辺りが明るくなり、気付いたらよく見慣れた自分の部屋にいた。

『随分静かだな・・・・・・まぁいい。さっさと準備をしよう。』

「・・・・・・うん。」

まずはこの濡れた制服をなんとかしなきゃならない。

着替えを取り出そうとしたところで、キリに呼び止められる。

『男物の服はあるか?』

「あるけど、なんで?」

『聖獣使いは男が多い。仲間になりやすいという意味もあるが、さまざまな安全面を考慮して、男装することを推奨する。』

「え、待って。聖獣使いってそんなに危険な職業なの?」

ヴィジョンで見たときはそうでもなかった気がするんだけど・・・・・・。

『ああ、使い手によるが聖獣を悪用する者もいる。・・・・・・聖獣が宿った武器を極めれば、人の命を奪うことなど造作もない。』

・・・・・・恐ろしい。


私は隣の部屋へ向かった。

たった一人の兄が着ていた、服を掘り返すために。






『できたか。』

「とりあえず・・・・・・。」

ズボンもパーカーも、私の本来のサイズより2サイズ以上大きい。

そしてキリのアドバイスで首もとにはネックウォーマーを(喉仏がないのを隠すため)着けた。


『ひとまず、こいつらは僕が預かろう。』

「げっ」

そういうなり、キリは口をあーんと開け、私の用意した荷物をリュックごと飲みこんだ。

『必要なときは言え。僕が出してやる。』

「それ、涎とか付かない・・・・・・?」

『ああ。』

それでも汚い。

という一言はなんとか飲み込んだ。

『忘れ物はないな。家族や友人との別れもいいな?』

「・・・・・・この時間に戻ってこれるんでしょ?必要ないよ。」

『そうか。なら早速行くぞ。』

「・・・・・・。」

私は先程と同様に、キリを抱えた。


『あ、そうだ。先にいっておくが、僕はもう向こうの世界へ行ったら力を殆ど使い果たしてしまうから、この姿でいられなくなる。・・・・・・武器に宿るが、くれぐれも琥珀だけは無くしたりしないでくれよ?』

琥珀のことは、キリに教えられたからわかるけど・・・・・・そんなんで私、大丈夫なのかな?

「こんな風に話すことはできる?」

『問題はない。・・・が、暫くは武器を使用している間しかコミュニケーションをとることは難しいだろう・・・。まずは一人、仲間を見つけろ。そうしたら僕はこの姿にまでは戻れる。』

「・・・・・・わかった。」

『よし、それでは出発だ。』

段々辺りが明るくなり、私は目を閉じる。

・・・・・・そういえば、電気を消し忘れた。

まぁいい。

消す人間がいなくとも、どうせ私はこの時間に帰ってくるのだから。


『ああ。そういえば最後にもうひとついい忘れた。向こうに行ったらどこに落ちるかわからんから覚悟しておけ。』

おいおい、なぜそれを早く言わなかった!

身体が消える寸前にキリはそれだけ言い残し、さっさと武器についている琥珀になってしまう。

咄嗟にそれを握りしめ、私は身体を強張らせた。

場所を移動するだけではなく、次元を越えるからだろうか?

移動時間は先程までより幾分か長く感じた。


やがて、下方の景色が変わってくるのがわかった。


そして間もなく、私はそちらに引き込まれ・・・・・・


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