第7話

「消防士さんだっけ? ミヤちゃんの好きな人」



風香は、上履きのつま先をトントンしながら、相変わらずのニヤニヤ顔を都古へと向けた。



「まだよ。今は訓練生だから、寮に入って消防学校に通ってるって言ってた」



会えない寂しさを誤魔化すように、都古はツンとそっぽを向くようにして進む方向を真っ直ぐに見る。



その凛とした中にも物憂げな雰囲気の漂う美しい横顔に、風香は溜息を漏らしつつ、



「全寮制だっけ? それって、訓練生の間は会えないってこと?」



風香も都古の隣に並んで歩き、自分の教室を目指す。



「この間、休みの日がうちのお兄ちゃんの帰省する日と被ったとかで、うちに遊びに来てたわよ」



――そう。



都古の好きな人とは、都古の兄の友人のことで、



しゅんさん、って人だっけ? 脳筋バカの」



「バカは余計よ。空手がすっごく強くて、すっごくカッコイイんだから」



名前は、相原あいはら 俊という。



兄が高校生の頃からの親友で、元々は兄の婚約者の美紅みくに対し、ずっと横恋慕していた。



その美紅が兄と付き合うことになった時も、婚約が決まった時も、俊は涙を流しながら失恋を悲しんだものの、それでも彼は二人の幸せをずっと願ってくれていて。



そんな切なくも温かい背中をずっと見てきていた都古は、そんな彼に対していつしか恋心を抱くように。



自分の気持ちに素直な都古は、すぐに彼に気持ちを打ち明けたのだが……

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