私の好きな人

第2話

――桜の木々が、一心不乱に辺りを薄ピンク一色に染める暖かな季節。



可愛く可憐な薄ピンク色の桜吹雪がふわふわと舞い散る中。



市川いちかわ 都古みやこさん! 初めて見た時から好きでした! 俺と付き合ってください!」



ここは中高一貫校である学校の校門を入ってすぐの場所。



今は多くの生徒がぞろぞろとなだれ込んでくる朝の登校時間帯。



そんな場所で、そんな時間に、この学校の高等部の制服を着た男子生徒が、同じく高等部の制服を着ている女子生徒に向かって右手を差し出しながら、腰を九十度に曲げて頭を下げた。



朝の早くからそんな大胆告白をされたこの女子生徒は、この学校の高等部二年生である市川 都古。



腰まで真っ直ぐに伸ばした艶やかな黒髪と、宝石のようにキラキラと強くきらめくあおい瞳が特徴の少女だ。



身長はこの年齢の女子にしては高めで、手足もスラリと長くモデルのよう。



中等部に入学してすぐの頃から校内一の美少女と名高い都古が、男子から告白されることは日常茶飯事で、



「えっと……ごめんなさい、どちら様?」



どこの誰だか分からない相手に声をかけられることもよくある。



相手は慌てて自分の胸元の名札を都古へと見せながら自己紹介をしてきたが、



「ごめんなさい。私、好きな人がいるから」



今、名前を名乗られたところで、知らない相手であることは間違いないし、そんな相手といきなり付き合うことなんて出来ない。



こういう時の断り文句は、都古の中では定番化していた。

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