第95話

「え……」



それは、こんな風に無計画に食事に行くことになった恵愛とは、絶対にそうならないという意味なのか。



デートだなんてうぬれるなと、そう言われた気がして、



「あ、そうよね……ごめんなさい、変なこと言って」



急に突き放された気分になった恵愛は、手にしていたナイフとフォークを鉄板の縁に立てかけるようにして置き、膝の上に置いた両手をぎゅっと握り締めた。



――最悪だ。



こんな状況になって初めて、



(私……たけみんのこと、好きになってたんだ……)



今更、そんなことに気が付くなんて。



俯き、溢れ出そうになる涙を懸命に堪える恵愛に、



「いや、変っていうか、その……俺だってちゃんとしたデートくらい出来るのに、これを初デートだと思われるのは、ちょっと心外っていうか」



恵愛を傷付けるつもりも、突き放したつもりも全くない武巳は、彼女が今にも泣きそうになっていることになど露ほども気付いていなかったが、



「してみる? 俺と、ちゃんとしたデート」



恵愛が恐る恐る顔を上げると、武巳はニッと楽しそうに笑っていて。



「……え」



「とはいえ、俺、休みは基本月曜日だけだしなぁ。有給の申請下りるかなぁ」



学生である恵愛に、武巳が休みを合わせようとしてくれている。



それが信じられなくて、



「え……本気?」



思わずテーブルに両手をついて、武巳の目を覗き込んでしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る