第71話

それが鼻血だと分かるまでに数秒を要した。



「えっ、なんで!? 大丈夫!?」



美紅は膝立ちの状態で右京へとにじり寄り、追加のティッシュを引っ張り出して右京へと差し出す。



ついでに、少し離れた場所にあったゴミ箱を引き寄せた。



「美紅……今はせめて、胸元と脚は隠してくれ」



「私!?」



右京に言われ、出血の原因が自分だとようやく理解した美紅は、シャツの第一ボタンを留め、髪を拭くのに使っていたバスタオルを太ももに被せた。



「国宝級のイケメンって言われてる右京くんが……私を見て、鼻血?」



相変わらず替えのティッシュをせっせと手渡しながら、呆然と呟く美紅に、



「……美紅を抱く前の俺なら、こんなことにはなってない」



天井の方を向いた右京が大量のティッシュの下から、くぐもった声でふごふごと答えた。



「美紅のぬくもりを知ったあの時から、毎日自分を抑えるのに必死なんだ」



「……」



てっきり、美紅に対して幻滅したとか飽きたとか、そういう感情を抱かれているのだと思っていた美紅は、黙ったまま右京を見つめる。



「美紅を大事にしたいって気持ちは、ずっと変わってないけど……俺も男だから、そういう刺激の強い格好で迫ってこないで欲しい。我慢出来なくなるから」



それは、つまり……?



「私に飽きたから遠ざけてたわけではないの?」



「そんなわけないだろ。以来、美紅のこと何度でも抱きたくて、ずっと我慢してるのに」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る