"そこ"

抹茶 餡子

第1話

"そこ"


深夜12時。僕は山に来た。

人気のない場所で、僕一人、誰もいなかった。

肩が重い。大きい荷物など持って来るのではなかった。

辺りは木で覆われていて、砂利道を通る。

深夜だからだろうか、梟の鳴き声や星空が良く見える。

どのくらい歩いたかは分からないが、随分深くまで来たようだ。

そこは一番光がなく、闇だった。

「…そこへ来て。助けて。」

奥からか細い女性の声が聞こえた。

ーー聞いた事のある声だ。

何だか分からないが、助けを求めている。

「"そこ"とはそっちの事か?」

「ええ、暗くて…寒くて、寂しいの。だから、助けて。」

ゆらり、と女性の影らしきものが、月明かりに照らされ、揺れる。

「…分かった。そこへ行く。」

覚悟を決めて近づく。

一歩一歩、ゆっくりと足を動かす。

持っていた荷物ーー棒をこっそり取り出し、背に隠した手で持ちながら近づいた。

女性の目の前に立つ。

棒を取り出し、女性に突きつけようとした時、それよりも速く女性の手が伸びる。

「ありがとう。そこへ来てくれて。」

グイッと手を引っ張られ、耳元で囁かれる。

どぷん、と身体がドロドロとした液体の中に入る。


「…今度こそ、逃がさないから。××君。」


彼女の声は泥の中に沈んでいった。

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