第41話


 授業が終わると、双子は早々に教室から出て行きバルコニーへ向かった。


 その後の授業もぼぅとしながら聞いていると、お昼休みにいつもの場所に来ると、章と柊真が話してくれた。



「この前から赤龍が襲撃にあってるみたいでさぁ、ピリついてんだんよな」


「あと一週間で林間学校だろ? 奏介さんは双子に大人しくしてろって言ってるけど、來さんが最近ちょっと不安定なんだよな」


「まぁ下っ端からの情報があれだしな」


「あれって?」


「今回の敵が……」



 章がチラリと遠慮気味に私を見て来た。


 単純に一般生徒を巻き込みたくないから口篭ったと思ったけれど、違ったみたいだ。


 章が小さく「神鬼の可能性が高くて……」と呟いたのを聞いて、あぁと思う。



「私は神鬼と関わりないから」



 入学式の自己紹介の時に言った言葉をもう一度言う。


 仲良くなった二人に嘘をつくことになるが、学生の身ではただの女子高校生で貫きたい。


 じゃないと、神鬼の総長でしたなんて言ったら目の前の二人はどうするか……。


 きっと今まで通り仲良くしてくれるだろうけど、双子と敵対することになったらその間を取り持たないといけなくなるし、可哀想だと思う。


 あの藍のことだから、きっと毎日喧嘩をふっかけられるんだろうなぁ。



「なら、良いけどよ。注意しとけよ? 神鬼側って手荒いだろうし、赤龍に今一番近いのって、美夜だろ? 利用しに来るかも……」


「章の言う通り。美夜を利用して赤龍を誘い出すことが出来るからな」


「そこまで仲良くないからそれは無いと思うけど……、気をつけるよ」


「この前、連絡先交換したやつが何言ってんだよ」



 そう柊真にツッコまれて、私は苦笑いを零した。


 確かに連絡先を持ってるのは危ないのかな……?


 双子は同じ班になった以上、仕方ないけど、先輩たちの連絡先は本当に要らないものだ。


 そう考えると、なんか面倒ごとに巻き込まれた気分になるな。



「本当にむかしの男からの連絡は気をつけろよ?」


「なんかあったらいつでも連絡していいからな。神鬼だろうが、何だろうが俺が守ってやる」



 章が胸に手を当てて言う様子に私は笑った。



「ありがとう。心強いよ」



 純粋に嬉しい反面、騙していることに胸がツキリと痛む。


 けれど、慣れないといけないと思う。総長で有り続けるまでは……。


 お昼休みが終わると、私は早退することにした。


 狙われやすいルートを知ることもあるけど、赤龍のことも気になって仕方ない。


 私自身、安心出来る立場にないが、昨日の今日で神鬼を狙うことはまずないだろう。


 だから今の内に音子から赤龍の情報を聞いておくのが良い。




 ✽     ✽     ✽




 Bar『アネモネ』に寄ると、上機嫌の音子に抱きつかれて迎えられた。



「美夜ちゃーん! 今日はどうしたの!?」


「急に押し掛けてごめんね。赤龍のことで聞きに来て」



 するとピクリと身体が揺れた。のそのそと身体が離れて、「入って」と招かれる。


 飲み物とコップを持って部屋に訪れると音子は真剣な顔で言った。



「赤龍が神鬼を敵対視してること聞いたんだよね?」


「うん。実際の所はどうなの?」


「実際に現場を見てるわけじゃないから、確かなことは言えないけど、“違う”と思う。美夜ちゃんが総長になっても、上の指示が絶対遵守の体勢は変わらないから」


「そう。じゃぁ下っ端が勝手に動いてる線はないね」



 やっぱり、私たちと同じ状況下にあるのかな。


 『神鬼』と『赤龍』を抗争させるなら、お互いに大義名分を与えないと始まらないから。



「神鬼から他の所に手を出すことは無いよ。初代からの組織力が凄いからね。夜叉姫が悠貴を牽制して総長の地位に就いてから、『神鬼』を動かす権力を握っているのは総長である夜叉姫一人だけ。その証も美夜ちゃんが持ってるし」


「証……? あ、指輪ことか。──思うんだけど、そんなにみんなが知ってる代物なの?」


「みんなって云うか、古参たちだね。初代から神鬼にいた人たちは全員、指輪の意味を重視してる」



 そんなに凄いものなのなんだ……。


 私にとっては那久の形見だけど、那久は思い入れの深い物だと言っていた。


 初代メンバーである創立者三人が持っていた指輪だと、そう言っていた気がする。


 それが総長である証なら、片方の指輪と、那久の部屋に置いてあった箱に入っている指輪は、悠貴に渡した方が良いのかな……?


 付き合っていた頃、指輪を見つめる那久の瞳が哀しそうで、誰かに渡すことを躊躇っているんだど……。



「……ちゃん! ……美夜ちゃん!」


「えっ!?」


「大丈夫? 顔色が悪くなってるけど……」


「うん、大丈夫。最近、付き合ってた頃を思い出すことが多くて」


「……美夜ちゃん、今回の抗争……あまり深く関わらない方が……良いんじゃ……ない、かな……」


「……大丈夫。それに総長の私にそれは難しいよ」


「だよね。分かってるけど……」



 きっと、言わずにはいられなかったんだろうな……。


 音子の頭に手を置くと「ありがとう」と微笑んで、ゆっくりと撫で下ろした。


 コクンと頷く音子にもう一つの話題を明るい声音で話し出す。



「あ、そうだ! もう一つ聴きたいことがあって」


「なに?」


「そろそろ私も狙われそうなんだよね。それで、夜叉姫が狙われるとしたら倉庫からの帰りだと思うんだけど、どの辺が待ち伏せされそうだと思う?」


「……美夜ちゃんがちゃんと頼ってくれて嬉しい。それなら、お兄ちゃんにも聞いた方が良いかも!」


「じゃぁ下に行こうか」



 私と音子は1階のお店ブースに行って、開店準備を進める手伝いをしながら、狙われやすい場所をいくつか絞り込んだ。



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