揺らめいて、ハニー
咲坂ゆあ
ときめいて、
第1話
「何でも言う事聞くから、私と付き合って」
多分あれが、私の人生における、最大の失敗だった。
王子さまと恋に落ちて始まる物語が、必ずしも幸せなストーリーを確約されているとは限らないらしい。
𓂃 𓈒𓏸໒꒱
「うぅ……私は近々振られるんだ、絶対別れ話持ち掛けられるんだ、もう終わりだぁあ!」
華の金曜日。本当は今月最大の幸せが詰め込まれた日になるはずだった金曜日。私は居酒屋の個室にて、盛大な愚痴を友人相手にぶちまけていた。
「へえ、朗報だね」
ビール片手の
「悲報だよ!朗報じゃないよ!振られる理由も分かってるの」
「うわぁ、詳細なんか聞いてもないのに勝手に語り始めちゃったよ……」
宝良ちゃんには申し訳ないけれど、残念ながら、今日の私と飲む、イコール、私の鬱憤の捌け口になる、という選択肢しか用意されていない。
「ちょっとしたハプニングだったんだ。連絡するつもり無かったんだ。でも
「待って。つかなにその制約。笑えるんだけど」
宝良ちゃんがレモンサワーを煽る。私もカルピスサワーのグラスを傾ける。ガキが好きそうなの飲んでるね、と笑われて以降、子供じゃない事を知らしめるように私はずっと同じものを飲んでいる。
甘くて苦いお酒で口を満たし、好きな人の話を続ける。
「仕事の時は仕事に集中したいんだって。だから連絡取りたくないんだって。分かるの。その通りだと思うの。電話も期待してなくて、嘘、本当はほんのちょっとだけ、1ミリくらい期待したけど……あっさり着信拒否されて」
「は?着拒?故意って悪意じゃん」
「ううん、いつもの事だから平気。でも、一昨日の私は引けなくて“雨大丈夫ですか”ってLINEいれたんだけどやっぱり無視で、次の日になってやっと“明後日会える”だけ返事を貰いました。もちろん会いたいですって言ったけど、以降、完全に無視です。既読すら付きません。これはかなりのお怒りです。王子さまに振られる理由・天気の心配をしたから、になっちゃうのかなあ、宝良ちゃああん!」
「別いいんじゃない?それで」
「良くないよ!私は振られたくないんだよ!」
「別れて良いよ。つかあんな男、羽仁の方から振りなよ」
「無理!やだよ!こんなに好きなんだよ!?」
「分かるよ。羽仁が好きなのは超わかる。でも向こうは羽仁のことなんとも思ってないじゃん」
「そんなことないよ」
不安に蓋をする。やや強制的に。でなければ、ドバーッと溢れて泣き散らかす恐れがあるからだ。
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