悪役令嬢たるものゲスであれ~追放エンドがわかっているので端から暴れ散らかします~

烏の人

ロマノフの鍵-序章-

第1話

 私、アナスタシア·アーバスノットは気付いてしまった。自分がある乙女ゲーム『黒魔に咲くロマノフの鍵』の中の悪役だと言うことに。16歳になる誕生日に私は破滅してしまうと言う事実に。

 自発的に気がついたと言うよりも、思い出してしまったと言うのが正しい。そうだ。私はそもそもこの世界の住人ではない。私は日本の高校に通う平凡な女子高生、七瀬ななせ 海美うみのはずだった。それがある日、に私は電車のホームに転落してしまったらしくそのまま気がつき、今に至る。


 姿見に映った着付けをされている己の姿に目を丸くする。

 幼い7つの子の髪色は白銀に輝き、紅い瞳は恍惚と自分の姿を眺めていた。


「………ふつくしい…。」


「!?」


 ほろっと出た言葉に着付けをしていたメイド、アンはこちらを見る。どうにも、ついにここまで来たかという驚きの表情をしていた。

 そりゃ当然だ。アナスタシアはこの世界において悪女である。主人公を徹底的に蹴落とす冷徹な存在だ。傲慢という言葉が良く似合う。

 そんな危ない奴が、自分を見て美しいと言った。イカれてやがると思われても仕方ないことだ。

 でもしょうがないじゃない。私はこんなに美しい存在に出会ったことがないんだから。圧倒的なまでのビジュアルの良さ。蔑むようなゲススマイル。それが私の心を撃ち抜いたアナスタシアという人物だ。

 しかし、同時に困った。先も言った通り、このキャラクター最終的に追放されてしまうことが確定している。どうすんの?これ?


 いや、逆に考えればいい。暴れちゃってもいいんだと。作中、アナスタシアは闇魔法に精通していた。それで裏から自分の手駒を操り主人公の邪魔をしていたのだ。

 なら私にも、闇魔法使えるってことだよね?なら端から暴れ回るしかないよね?いっそこの国のほうを破滅させて私が王になってやるしかないよね?


 着付け役のメイドは手早く仕事を済ませると、訝しげな顔でこちらを見ながら部屋から出ていった。


 うん、流石にちょっと自分でもどうかと思ってた。自分で自分のこと美しいって言う奴いたら私でもあんな感じの顔になる。

 まあいい。それよりももっとこの世界を、この体を楽しむことが大切である。前世の記憶を取り戻した今、私を止めるものなど居ない。

 ならとりあえず闇魔法を会得するところからだが…アナスタシアってどうやって闇魔法を会得したの…?

 流石にそこまでは作中で語られなかった。私の当面の目標になりそうである。ただ、心当たりはある。作中でアナスタシアは黒い魔石の嵌め込まれたネックレスを着けていた。


 多分それだ。それこそが闇魔法と関連のあるアイテム。じゃないと作中でアナスタシアが闇魔法を使ったときに意味深に光ったりしないでしょ。


 そうなるといずれ手に入れることになるだろう。

 なら私のすべきことは…貴族としての立ち振舞い?いざというときの腕っぷし?破滅させたあとの人脈確保?人心掌握術?あらゆる場面に対応するための知識?どれだ…?


「いや…全部だ。」


 私はその全てがほしい。ならもう手当たり次第にやるしかないよね?幸いにも生まれがもう恵まれている。この点に関して不自由など無いだろう。図書館だってあるし、お父様のつてを頼れば剣術も学べる。


 そうと決まれば今日から傾国美女になるための勉強&特訓しかないわね。


 そう言うわけで私が目指した場所は図書館。この屋敷にはいろいろな書物が保管されているためしばらく困ることはないだろう。


 にしたってちょっと多すぎるくらいだとは思う。こんな量読みきれるのかしら?まあいいわ。やると決めたらやる。それが今の私だもの。


 ずらっと並んだ医学書に哲学書、生物学書に神学書に魔術書。どれから読もうかしら。まあでも気になるのはここからよね。

 そうして私は神学書の1冊を手に取る。魔法を使うには絶対に知っておかねばならないような知識だからだ。

 分厚いそれのページをめくっていく。


「ふむふむ…確かこの辺は一神教だったわよね…。」


 この辺の考え方ではその神に祈りを捧げることで魔法を使えるらしい。もっと言うと、信仰が行き届いていない平民で魔法を使える存在は稀有と言うことか。


「なるほどねぇ…ん?」


 気になる一節が目に入る。


「闇魔法は神への祈りではなく悪魔に傾倒したものが扱う異端であり…排除の対象となる…。」


 まあそうなるわよね…作中世界でアナスタシアが絶対悪だった理由の1つがこれだった。

 まあでも私の目標的には関係ないわ。何せ私の目標は国家の転覆だもの。こんな可愛いアナスタシアちゃんを追放したんだから、そのくらい当然よ。


 とりあえず闇魔法について解ったことをあげるとするなら攻撃手段はそこまで持ち合わせていない代わりに精神に入り込む魔法ということ。それならばゲーム本編でアナスタシアが自分の手駒を増やせていたことも説明がつく。でもやっぱり会得はすごく難しいみたい。

 悪魔に見初められることがその条件。どないせいっちゅうねん。


 て、言うかアナスタシアちゃんどこでそんな悪魔と出会うのよ…ある意味ここまで来たら製作陣からも愛されていたのかしら…?それともここはあのゲームに良く似た別世界とか?まあどちらにせよだわ。


「アナスタシアちゃんにできたのだから私にだってできるはずよ!もっと頑張らなくちゃ!!」


 そうして時計を見ると…ここに来てから既に2時間が経過していた。ちょうど読み終わったことを考えても割りと早い方。まあ昔から速読は自信があった。それでもここにある本全てを読むのは…何年かかることやら。まあ毎日の日課ができたと考えればいいことよ。


 そう考え直し、次の本を手に取る。2冊目の本は魔法学書。魔力の扱い方とか、属性の変化のさせ方とかを詳しく解説しているけれど、正直闇魔法以外はあんまり興味がないのよね。なんて言うかアナスタシアちゃんには似合わない。なにもかも蹂躙して世界のトップに立つ。そんなアナスタシアちゃんの姿を見てみたいの。

 だけど魔力の流し方と言うのは知っておかないといけない。そう思いページを進める。

 ひとしきり読み終えて、記述通りにやってみる。お腹の下の辺りから自分の体内に向け糸を巡らすみたいなイメージで…。

 少し身体が暖かくなったように感じる。言葉では言い表せないけれど、それが魔力なのだと本能的に理解した。

 成長できる私、えらい。


 案外私もやればできるもので早3冊目である。まあ、内容が似通っているのもある。そして見つけた気になっていたあの黒い魔石についてとおぼしき記述。


「ほう…悪魔石ねぇ…。」


 真っ黒に染まった魔石というのは俗に悪魔石と呼ばれるようで、その力は強大。尚且つ使ったものは破滅へと導かれるためその名がついたと…いいじゃない。上等じゃない。そう言うのがほしかったのよ。それを乗り越えてこそ悪役よね。


 と、気がつけばもう4時間…いや、まだ4時間の間違い?この厚さの本を3冊読んでこれかぁ…まあいい方ではあるかもね。


 次へ次へと気になる本を手に取っていく。そうして気がついてみればもうお昼はとっくに過ぎ去っていた。この場所に8時間は居たことになるのか…やるな、私。


「ここにいらしたんですか…アナスタシア様…。」


 そう声をかけてきたのは私専属のメイド、クレアだった。


「皆さんお探しでしたよ…って…何です?これ?」


「これ?あぁ、ずっと読んでたのよ。」


「読んでた…?アナスタシア様が?」


「ええ、そうよ。」


「…頭でも打たれたんですか?」


「なっ、ひどくありません?」


 いや、まあそう思われても仕方はない。アナスタシアは冷酷で利己的な存在。己が力を持つのではなく、他人に全て押し付けるような性格であった。


「こ、これは失礼しました。ですが本当に大丈夫ですか?」


「大丈夫よ。ちょっと私も変わってみようと思っただけですわ。」


 そう言うと、少し呆れたようにこちらを見る。まあそうよねアナスタシアって子はメイド達にとっては腫れ物同然だったもの。ゲーム本編でもアナスタシアちゃんのメイドはクレア1人だけだったわ。最終的にはクレアにも見放されてたけど…。


 それでも私はアナスタシアちゃんの味方よ?一緒に国家転覆目指して頑張りましょう?

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2024年11月30日 12:00
2024年12月1日 12:00
2024年12月2日 12:00

悪役令嬢たるものゲスであれ~追放エンドがわかっているので端から暴れ散らかします~ 烏の人 @kyoutikutou

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