第17話

その後、桃馬の家から計算書を持って行った夏妃は自宅で広げる。大量の数字に頭は混乱しそうになったが、秋人と事情を聞いた真理が手伝ってくれたおかげで間違えずに済む。そうして夜には数十枚あった計算書を全て仕上げる事が出来たのだった。

「これで…後は生徒会長に届けるだけだな!」

無事に仕上げる事が出来て安心する夏妃。すると、その様子を見た秋人は呟く。

「…夏姉が届けたって意味ないでしょ。こういうのは桃馬自身が届けないと…。」

「?そういうものなのか?」

「そうね…。アンタが届けたって受け取って貰えないと思うわ。何たってアンタは、あの生徒会長にとって『ライバル』らしいから…。」

秋人と真理の話を聞いて思わず夏妃は考え込む。本音を言ってしまえばこの計算書を渡すついでに生徒会長に文句を言いたい。だが、実際に依頼を受けたのは桃馬なのだから、彼自身が渡すのが一番なのだろう。そう改めて考えた夏妃はやや不満そうにしながらも頷く。その姿に秋人は呆れながらも安心したようだが、真理は顎に手を置くと何やら考えるのだった。


 翌日。皆が楽しく昼食を摂っている中で真理は徐に立ち上がる。そして周りの者には何も言わず教室から出て行こうとしていた。

「あれ?雨宮さん、どちらに行かれるのですか?」

「…別に何処でも良いでしょう?今は昼休みで皆は好きなように過ごしてるし。そもそも…あなたには関係ないわ。」

呼び止めた生徒に対し真理は淡々と答える。一見すると尋ねられた事に普通に答えているように見えるが、その瞳は氷のように冷たい。明らかに普段夏妃に接する時とは違っている。結局、それを感じ取った生徒は顔を引き攣らせながら後退りするが、真理は気に止める様子もなく教室を出て行った。

 教室から出ると真理は1人廊下を歩く。周りは昼休みという事もあって会話をしたり、お弁当を食べたりしている。そんな楽しそうにする皆を尻目に真理は何食わぬ顔で通り抜けていくが、その姿を見た数人の生徒がこちらに視線を送りつつ話し始める。

「ねぇ…あの子って…。」

「うん…。『あの雨宮』さんだよ…。」

一見すると生徒達は本人に聞けないよう小声で話しているように見える。だが、それは見た目だけで真理にはしっかりと聞こえていた。

(相変わらず…ね。)

そう思った真理はタメ息をつき足を止めると、噂話をした生徒達の方を見つめる。すると、それに気が付いた生徒達は気まずそうに目線を逸らして離れていく。だが、普通の人にとっては傷付くその行為にも真理は気にする事はなく突き進んで行った。

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