第65話

山を下りあぜ道を歩き続けて早数時間。辺りには行き交う人々の姿が増えてきた。更に道の端には木造の家や店が建ち並び始め様々な匂いが漂っている。思わず匂いに誘われ寄り道をしたくなった2人だが心を鬼にして足を進めていた。

 と、妙な雰囲気を漂わせる2人の子供の姿に人々は不思議そうに目をやる。その目は桂の事を見破ろうとしているのか、ただの好奇の目なのか。いずれにしてもあまり気持ち良いものではない。そんな町中を2人は身を寄せ合いながら歩いていた。

「どうしましょう…。一平さんの家が分かりません…。」

「うん…。何となくこの辺な気がするんだけれど…。」

思った以上に人や建物が多くて2人にはなかなか見つける事が出来ない。必死に桂は気の流れで探そうとするが、それも上手くいかない。結局、誰かに聞かないと分からないようだ。平助は深呼吸をすると意を決し町行く人に話しかけた。

「あの…。この人のいる所に行きたいのですけれど…。」

少し震える手で懐から手紙を見せる平助。すると、その様子を見た人達は思っていた以上に丁寧に場所を教えてくれた。それだけでなく『結構な名家だったけれど今はその人しかいない』とか『その人も最近は家からほとんど出て来なくなった』とか場所だけでなく近況まで話してくれた。2人は改めて頭を下げると人から聞いた方向へと足を進めた。

「…一平さん大丈夫かな?」

平助の背後で桂はふいに呟く。確かにさっき人から聞いた『最近家から出て来ない』という言葉は引っ掛かる。

(もしかして彼はもう…。)

そんな不安が過った平助は思わず強く桂の手を握る。そして

「その事を確かめる為にも…僕達は進まなきゃ!」

と自分を奮い立たせるかのようにあえて強い口調で言う。その目に涙は見えないが心の中では『自分に名を付けてくれた人と既に今生の別れをしているのではないか?』という不安が滲み出ていた。その事を感じ取った桂は平助の手を握り返し後は何も言わなくなった。無言で歩き続ける2人の背中を冷たい風が押し、薄暗くなってようやく見えてきた一番星が静かに見守っていた―。

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