第13話


それから



「~♪」



あたしはムーンリバーを口ずさみながら、バスローブのままリビングの窓枠に腰を下ろし、



けれどビールはやめた。



今はあたしが大好きな赤ワインのフルボディ。



怒ってるときはスコッチ、ストレート。楽しいとき気軽なときは赤ワイン。



そう…



あたしは怒ってなどない。



ただ―――



―――とても悲しい。



激しく、ときに穏やかで……その悲しみは不安定に大きさを変える。



あたしはソファの方をちらりと見た。ソファの背に乗せた啓のワイシャツ。



ふらり



立ち上がると、あたしはソファを素通りして、壁に沿って置いてあるチェストの引き出しを開けた。



引き出しの中から白い紙袋を取り出し、その紙袋からオレンジのパッケージで“リスペリドン内用液”と書いてある経口薬を取り出した。



普段は余程のことがない限りあまり服用しない。眠くなるから。



苦いし、不味いし、これはあくまで頓服だ。



心が不安定な時にだけ―――と処方された薬。



1mlと書かれた経口薬の口を開き、それを勢いで口に流し込む。一気に言いようのないまずさが口の中に広がり、それをかき消すため、ワインを口にした。



重く渋みのある独特のコクがその苦みを消してくれたけれど、



それから30分経っても、効果は現れず、あたしは再びもう一包…と手を伸ばした。



引き出しを開けて、同じ引き出しに小さなアンティーク調の小箱の存在に気付いた。



こげ茶色をした長方形の箱。



あたしはその小箱を開けた。



あたしにとってお金より大事なもの、命を繋ぐものがこの引き出しに入っている。



小箱を開けると、薄いグレーのベルベッド素材の底に、モノクロの



あたしが妊娠に気づいたときのまだユーリがひとの形になるかならないか…小さな胎児のエコー写真が入っている。



それをそっと取ると



「懐かしい…」あたしはちょっと微笑んだ。



今、この写真を見つけられたのは、ユーリがあたしの命を繋げようとしたのか。



エコー写真を手に取り、しかし別の事も浮かんだ。



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