第8話


またも頬に伝った水滴に塩辛いものを感じて、あたしはぐいと乱暴に目元を拭った。



日本に来たとき、あたしはたった一人だった。



その時に戻っただけ。そう考えると、大した問題じゃない。



こういうの強がり、って言うのだろうか。



だけど



今は感傷に浸っている場合じゃない。気を引き締めなきゃ。



『ねぇ瑠華―――ケイトに本当のこと話したら…?瑠華が本当のことケイトに話したら、あたしもケイトに言われたこと素直に喋る』



心音が優しく提案してくれたけれど



「ううん、それはいい。啓が心音に何を言ったのか、今知っても仕方ないし。



本当のことを啓に言うのも―――



しない」



あたしがキッパリ言い切ると



はぁ、と心音は小さくため息。



『言い出したら聞かないからね、あんたは。昔から』ちょっと苦笑の声が混じってきた。



「あたしの性格、一番よく知ってるでしょ?」



『あたしが辛いとき、悲しいとき、寂しいとき、瑠華が必ずあたしの隣にいてくれた。同じくあんたが辛い時、悲しいとき、あたしがすぐ近くに居る―――…て言いたいけど、物理的な距離はあるし…』



「大丈夫よ、もう子供じゃないんだし。心音も仕事溜まってるでしょ?」



強がりで笑ったりもして、



でも




『あんたの闘いはあたしの闘いでもある。




まだ負けじゃない。



これからが勝負』



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