第3章

第3話

あれから、萌架はルークの言葉が気になっていた。


「…確かに、出会った頃から何処か影のある人だと思ったけど…でも、何故か惹かれてしまう…不思議な人…。」


普段のルークの様子を見ても、変わった様子はないように見える。


しかし、ある日の朝、顔面蒼白な彼の姿があった。


「ルーク…?大丈夫…?顔色が良くないわ。

今日は、ゆっくり休んで…。」


萌架は、心配そうにルークに声を掛けた。


「お嬢様…。ご心配をかけてしまい、申し訳ありません。…しかし、私にはまだお給仕が…。」


ルークの言葉を遮るように、萌架はピシャリと一言伝えた。


「私のことは良いから、休んで。

…今にも倒れそうなんだもの…。」


そして、その日の夜、いつにも増して月が綺麗だった。


萌架は、窓を眺めていると、屋敷の中にある薔薇の庭園に行きたくなり、自然と足が庭園に向かっていた。


薔薇の庭園の中に入ると、ガラスの天井から差し込む月の光と幾つもの薔薇の美しさが交わり、独特な妖艶さを放っているようだった。


誰も居ないと思っていたその時、一人の男が萌架の視界に入った。


「だ、誰…?そこに誰か居るの…⁉︎」


萌架は、少し怯える様な声で男に問い掛けた。


「…見つかってしまいましたか…私も、まだまだですね。」


よく聞き覚えのある上品な落ち着いた声に、ほっとする萌架だが、目の前に居る男は、その人物の見かけとはだいぶかけ離れている。


シルクの様な美しさと柔らかさのある銀色の長い髪、ガーネットの様な深紅の瞳。


「…その声…あなた、まさか…ルークなの…?」


萌架は、確かめる様にゆっくり言葉を出し、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「左様でございます。萌架お嬢様…。

私は、ヴァンパイア…。

ですから、朝も弱く日光は苦手なのですよ。」


「それに…血が欲しくなってしまうのです。

ですから、私に近付かない方が宜しいかと思いますよ。」


目の前に居るいつもと違う、美しく妖しい雰囲気を纏う男。


彼の瞳に、このまま吸い込まれてしまうのではないかと錯覚する程、彼から目が逸らせない。


「美しい物には棘がある」、「綺麗な物には毒がある」とはよく言ったものね。

気が付くと私、ルーク…あなたのことしか考えていなかったわ…。」


萌架は、静かに呟いた。


「…お嬢様は、私が怖くはないのですか?」


幼少期の頃に聞いた言葉が蘇ってくる。


「あまりの見た目の変わり様に驚いたけど…怖くないわ。

どんな姿だって、ルークはルークでしょう?」


萌架の迷いのない言葉。


ルークはずっと、萌架の存在に救われていたことを思い出していた。


「…私は、萌架お嬢様だから、お側に居たい…お仕えしたいと思ったのです。」

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