第15話
そして二週間近く過ぎた。由佳からはあれから連絡がない。こっちからしようかどうか迷ったけどどうしても軽々しく電話できなかった。
由佳のことも気になるけど、今日は私の誕生日!由佳、今日だけはごめん。私自身のこと考えさせて?
いつものルーティーンでそっけなく朝食を済ませあっさりと知坂は「行ってきます」とビジネスバッグを手に家を出ていこうとする。
今日の予定を聞かれなかったことに少しがっかりした。
知坂は私の誕生日忘れてるんじゃ―――
と思ったら
「あ、そうそう。今日お前何時上がり?」と聞かれ、私は思わず顔を上げた。
「いつも通り。8時半には店を閉めて……あ、でも今日友達がちょっと会いたいって。お茶してくる」
友達って言うのは由佳ではなく加納くんの方だ。数日前連絡が来て今日の夜どうしても会いたいって。時間は取らせないから、近くのファミレスで会いたいって言ってたな。
きっと由佳のことで相談したいことがあるんだ。今日が大事な日だと思っていても友達も大事。結局『ちょっとなら』と言う条件で会うことになったのだが。
「そっか、気を付けて行ってこいよ」といつになくご機嫌に知坂は頷くと鼻歌なんて歌っちゃって家を出て行った。
そんなに私の誕生日を気にしてくれてたの!嬉しいよ!
その日、私は仕事をうきうきとこなした。いつはドジでミスばっかりの私も今日ばかりはスムーズに行った。ああ、これから一大イベントが待ってると思うと仕事もはかどるのね。毎日がこうだったらいいのに。と思いながら時間はあっという間に過ぎて閉店を迎えた。
シャッターを閉める際、すでに加納くんの軽自動車が到着していて軽くパッシング。
加納くん……よっぽど気が急いているんだな……そりゃ大事な大事な由佳のことだもんね。
「あ、そう言えば麻生さん今日誕生日だったよね~、これからどっか行く?みんなで誕生日会しない?」と親切な同僚が申し出てくれたが
「ごめんなさい、今日は予定があって」と断るとその女性同僚は
「あー、あそこに居るイケメン彼氏とお誕生日会?」ムフフと声をあげてその同僚が目配せしたのは加納くんの乗ってる軽自動車で。
「お出迎えなんて、なんて優しい彼氏なの」と同僚は胸の前で手を組んだ。
「いえ、彼は彼氏じゃなく……彼氏はまた別に居るんですけど、彼は友達的な?ちょっと急な相談事があるみたいで」
と、バカ正直に答えてしまったが、同僚は気にしてない様子で
「そう?困ったことがあったらうちらにも相談してね。まぁ大して力になれないかもだけど」
このカフェで働いてもう八年。私は同僚には恵まれているようだ。
それだけは幸い。ずーっとここで働きたいなぁ。
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