第13話
「何なの、あの医者!」
もし……もし由佳が中絶するって決めてもここでは絶対させない、と鼻息を荒くしていると、
「ねぇ、今からここに行ってみない?あの先生『ここじゃどうしようもできない』って言ってたけど、ここならもっと最先端な技術とかあるかもしれないし」
と、渡されたたぶん”紹介状”が入っているであろう茶封筒を見つめて加納くんが言い出した。
「そう……だよね…」
加納くんは正しい。今でも由佳のおなかの中では子供が育っている。どちらに決断するにも早く分かった方にこしたことがない。
と言うわけで加納くんの軽自動車に乗り込み、あの医師の汚い字で書かれた住所を頼りにナビを設定した。
「これ?医院?警察署って載ってるけど」後部座席に座り込んだ由佳と私に振り返り加納くんがちょっと不安そうに眉を寄せた。
加納くんの軽自動車は言っちゃ悪いがちょっと古い。加納くんが自分で中古で買ってナビもそのときついてきたものらしいから最新情報に更新されてないだけかもしれない。
「とりあえず行ってみよう」
私の言葉に頷き加納くんは車を発車させた。
そうして車を走らせて三十分。加納くんのナビは間違ってなかった。
この県内の一番大きな警察署。
「何で警察署?あのヤブ医者」厄介ごとは警察に丸投げか、と思わず歯ぎしりしていると
「ま、まぁ住所はここになってるし、名前も書いてある。この人を訪ねてみよう」といつになく行動的な加納くんの説得で私たちは警察署に。
由佳は「怖い。警察に行ったら動画をネットにばら撒くとか言われたんだよ」と言って車から降りようとしない。気持ちは分かる、私は由佳が被っていたハットをぐいと下げて顔を見えない様にした。ついでに私が着ていたパーカを脱いで彼女に着せた。
「これなら由佳だってバレないし、大丈夫」私が言うと由佳は渋々頷いた。
警察署に……しかもこんな大きなところに来たのは初めてだ。28年間真面目にやってきたから犯罪を犯すどころかその被害者ににもなったことがない。
署に入ると右側に大きな総合案内所があって、まずはそこで聞き込み。(まるで自分が刑事になった気がした)
「この方がここに居るらしいんですが……知人にこの方を訪ねろって」と受付に当たった女性警官に封筒を見せると
「
「すみません、これを書いてくれた人がその人にだけ見せろって言ってて」と加納くんが嘘をついた。これ以上由佳を傷つけない為だと思うとまた涙が出そうになる。どうか……どうかお腹の子が加納くんの子であってくださるように。
28年間生きてきて、神様なんていないて悟ったのに、私は今だ神様の存在を信じていたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます