第2話


遡ること二週間前。



私の起床時間は早い。朝5:30、隣で眠っている彼氏の伊藤 知坂ともさかを起こさないようにそっと抜け出し、顔を洗って歯を磨いて、そこから二人分のお弁当と朝食を作る。合間に昨夜知坂が脱ぎ散らかした靴下やらワイシャツやらを拾い集め洗濯機に放り込む。



洗濯機が終了を終えベランダに洗濯物を干したら、ちょうどご飯が炊きあがる。最初は慣れなくて戸惑ったが三年も続けていると慣れるものだな。



時間はちょうど7:00.



まだベッドで眠っているであろう知坂の方に近づくと、彼は眠っていなくて横になったまま動画サイトを見ていた。



知坂が大好きな格闘技の動画だ。そこに映っていたのは白い天使……?のマスクをした格闘家と、対戦相手のドレッドヘアを施した格闘家がパンチやら蹴りで闘っていた。



格闘技に天使のマスクなんてちょっと不気味にも不思議にも感じたが、それは最初のうちだけでこの格闘家、知坂が教えてくれたが名前を『エクスーシアイ』と言うらしいは、私が見てる限りかなり強い。



上半身裸の背中に大きく彫られた翼……それも片方だけが印象的だった。



それでもマスクをした『エクス―シアイ』と言う格闘家の方が筋肉的にスラリとしていたからドレッドヘアの方にやられるかと思っていたが、マスクの方が華麗に回し蹴りをくらわし、ドレッドヘアの顎に当たったのか彼はあっけなくリングの床に沈んだ。



「まーた見てたの?格闘技?知坂好きだね、飽きないの?」横になったままの知坂に抱き着くように私もベッドに潜り込み



「あー、『エクス―シアイ』は最強なんだぜ?見て見ろよ、このタトゥー、かっこいいだろ」とちょっと興奮気味で言われたけれど私は格闘技なんて全然興味がないし、それが例えオシャレタトゥーであっても受け入れるのは難しい。そもそもイマドキマスク被って闘う?タイガーマスクじゃあるまいし、と苦笑。



「今、エクスーシアイのことバカにしただろ。この素性の知れないところもまたかっこいいんだよな~」と知坂が僅かに振り返って私の額を軽くデコピン。



「バカにしてないしてな~い」と笑いながら「ね、朝食できたよ。早く食べよ」と言って彼の頬に軽くキス。



「ん」



あー、幸せ。二十八年間の中で今が最も幸せ。この幸せがずっと続くといいのにな~



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