人生なんてこんなものか。

第1話

■人生なんてこんなものか。



28年間、人生なんてこんなものか、と思うぐらい全てうまくいかなくて…



神様なんて絶対存在してなくて。



小学校、中学校とそれなりに勉強も頑張ったつもりでいるのに成績は伸びず中の下。運動なんてもっとダメで毎年の体育祭にはうんざりしていた。



大学は都会の大学に行きたくて両親を説得させ受験するも全て失敗。大学浪人できる程家が金持ちじゃなかったから、そのまま地元で地味に就職を考えていたが、それでもせめて住む場所は、こんな片田舎ではなく都会にでたかった私はこれまた親を猛説得して築40年のボロだったけれど念願のアパートに引っ越すことができた。



しかし世間は甘くない。高卒の私が就職活動をしてもどの企業も相手にしてくれず、仕方なくせめてもの憧れだったオシャレなカフェでバイトをする所謂今でもフリーターって言うヤツだ。



恋?そんなもの学生時代の私には皆無で、好きな人ができても『ブスだから無理』とか『地味な女はタイプじゃないとか』言われてフられ続けてきたこの私。元々地味な顔立ちでファッションにも疎く、年ごろになったらお化粧なんかにも興味が出てくる筈なのに、それすらここまで来たら億劫で。だからフられる理由も私にあるわけで。



けれど二十歳を過ぎるとそれも変わった。三年前から毎日同じ時間に通ってくるお客と恋に落ち、その人に告白されて有頂天になっていた。そのときだった。私の住んでいるアパートが放火に遭い行く場所を失った私に「一緒に暮らそう?」と言ってくれたのも彼だっけね。ああ、ついてない………ってついてるって言うのか?これまた夢見た彼氏との同棲生活。このまま結婚とか!?



とぬか喜びもいいとこだ。






今日三年付き合って同棲までしてた年上サラリーマンとも破局になった。






そんな私の運命が変わったのはつい二週間前。



二週間後の今、私は名前も知らない―――いや、知ってるには知ってる。



確か……天真てんしんって言ってた。



に、抱かれている。



むき出しのコンクリ―トの壁は熱を通さないから寒かったし、中央に置かれたベッドはまるで病院にあるようなそっけないパイプ式のもので少し開けたブラインドから早く移動する雲の影が流れている。外からほんの少ししとしとと降る音だけがBGMだ。宙からは裸電球がぶら下がっていて、お世辞にも雰囲気があるとは言えない。



けれど空気は―――とても澄んでいる。



天真のボサボサ髪は見た目と違ってシャンプーとの良い香りとほんの少し雨の匂いがするし、よれよれの白衣の下の筋肉はかなりしっかりついていて、私を抱きしめる力は力強いもののどこまでも優しい。メガネの無い視界の中間近に迫った天真の顔が思いのほか整っていたのも意外な発見だ。背が高いから足を絡ませる度、ちょっとタイミングが合わなくてそれすらもどこかくすぐったくて笑った。



初めて会った時から毒ばかり吐く唇からのキスはまるでチョコのように甘く、耳元で




「きれいだ」




と言われると泣きそうになる。



だって『きれい』なんて言われたこと28年間ほぼないんだもん。



私は天信の骨ばっていて、しかしその上にしっかりとついた筋肉の上、背中に彫られたトライバル模様の大きな羽根のモチーフが描かれたタトゥーの場所をしっかりと抱き締めた。



危険なオトコと分かりつつ、人生捨て鉢だったから、この先もうどうなってもいい、とさえこのときは思っていた。



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