第60話


一瞬でもその気になった私がバカだったよ。



私は脅迫状の件でここ数日ビクビクしながら、九条を頼りたかったけれど彼女面して頼ることもできなくて、それでもあいつが『俺に任せておけ』って言うからそれを信じて……



ホントバカ。



”スカイラウンジ”と書かれたパネルの文字を指でそっとなぞっていると、



「陽妃ちゃん、どうしたの?急に」と陸ちゃんが走ってきたのか肩で息をしながら近づいてきた。



「陸ちゃん……」



その存在を忘れてたわけじゃないけれど、彼の顔を見て何故だか急に涙が込み上げてきた。



もう……目に見えない脅迫者から脅迫されてるとか、どーでもよくなっちゃった……






ワケない!!!!






あいつ!九条ぉ!!



あんだけ思わせぶりなこと言って乙女(←?)の心を傷つけたこと、後悔させてやる!



私は昇パネルを連打した。



「ちょっ!どうしたの!?さっきスカイラウンジの文字見てたけど、そっちの方が良かった?」とどこまでも消極的な陸ちゃんにすらイライラする。



「ち・が・う!一階ラウンジでって誘ったのは私でしょ!」と勢い込むと



「う、うん」と陸ちゃんは私の気迫に気おされたのか一歩後退しながら「じゃぁ気が変わった?夜景でも見たくなったの?」



陸ちゃんの言葉を無視して彼の腕を掴むと「ちょっと付き合って!」



私はちょうど降りてきたエレベーターに陸ちゃんを強引に押し込め、自身も乗り込んだ。



私たちを乗せたエレベーターは高速で、どんどん上昇していく。耳の奥がキーンと鳴りながらも、その奥で聞こえるのはくすぐるような甘く低い九条の声で―――



何で……



何で




何で―――




を心の中で繰り出しながら、





九条、何でもっとうまくできなんだ、お前はぁ!



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