逆恨みのジュジュ
入月純
第1話
「私、呪われてるのかもしれない……」
朝の爽やかな登校時間に、
私はその台詞を聞き、『トキメキ♡陰陽師! 除霊・ボジョレー・ボンジュール☆』を思い浮かべ、
「ヌボヌボヌーボ、ボン・ジュー・ル!」と振り付きで応える。
ちなみに『トキじょ』は、主人公のイタリア人とカナダ人のハーフ少女、フランソワ―ズ・フランシスちゃん、通称フラフラちゃんが日本全国津々浦々まで悪霊退散を叫び周るという、水戸光圀公のような素晴らしい活躍を見せる、一部では大人気なアニメなのだ。ネタバレになってしまうけど、両親が外国人同士という意味でのハーフでもあるんだけれど、身体の半分がフランソワーズちゃんで右半分がフランシスちゃんという、肉体的にもハーフなわけで、フラフラちゃんは子供ながらに苦労人でもあるのだ。そんな彼女が私も大好きで、録画したやつを何回も見返しては決め台詞、「はにぃえっふぇる」の練習をしている。
「いや、そういうのじゃなくて、真面目な話で」
しかし、ノッてきてくれないと思ったらどうやら冗談ではなかったらしく、いつもの朋美らしいハツラツとした元気を感じさせない表情で下を向いてトボトボと歩いている。
「なんかさぁ、最近肩とかすっごく重いんだよね……。夜もなかなか寝付けないし、……普段こんなに眠いのに」
瞼が忙しなく上下に動いていて、なんだか面白い。
「ふ~ん。大変だね~」
「いや、大変なんてもんじゃないんだよ、これが……」
朋美は、皆の気を引く為によく嘘を吐く。とても嘘が上手いので、私も含め、皆騙されちゃうことが多くて、きっと今も、大袈裟な体調不良を訴えて、私を騙そうと、嘘を吐いているんだろうなと思い少しだけ心配したけど、どうやら今回は本当みたいだ。
「どうしたらいいかな……」
「でもさでもさ、それってほんとに呪いなのかな? ねぇねぇ、呪いなのかな?」
「呪いだよ絶対。だって普通じゃないもん。病気じゃないのにこんなに辛いとかおかしいでしょ」
病院に行って精密検査を受けたけど、異常は見つからなかったみたい。これは本当に呪いなんだね。
「お祓いとか……行くべき?」
「お祓いとか行くべきだよ! 楽しそう!」
別に話を合わせたわけじゃなくて、ほんとに楽しそうだと思ったので、私もついていくことにした。
お坊さんはお祓いをするから上着を脱いで、お布施を下さいと言った。
すると朋美はお母さんから貰ったらしい一万円札を差し出す。
「では、除霊しますね」
「おおー! 本物の除霊が見れるんだー! 楽しみー!」
「ちょ、
怒られてしまった。別にいいじゃん。
「それでは始めます」
と、なにやら呪文を唱え始め、五分くらい経ってから「無事、終わりました」と、汗も掻いてないのに額を拭う仕草をしたお坊さんは、用が済んだらさっさと帰れといった態度に豹変したので、私達は逃げるように立ち去った。
「これで大丈夫なのかな~。不安~」
「なんか嘘臭いお坊さんだったね。フラフラちゃんの方が絶対霊力高いよ」
お坊さんはお金の為に除霊してるけど、フラフラちゃんは善意で除霊をしてるから、見返りなんて求めない、素敵な女の子なのだ。神聖な除霊をお金儲けの為にやるなんてどうかしてるよ、あの人。
「あ~あ、今日もまた
「ふ~ん、昨日も慰めてもらったんだね、光太郎くんに」
「うん。ずっと頭撫でてくれてたの。えへへ。すっごい優しい」
嬉しそうに光太郎くんのことを話す朋美。
光太郎くんは同じクラスの男の子で、朋美の彼氏。私も光太郎くんが好きだったけど、今は朋美の彼氏になってしまった。くそ~朋美の奴~。
で、毎日惚気話を聞かされている私は耳を塞ぎたいけれど、生憎聴力には生まれつき恵まれているので、耳を塞いでも声は聞こえてしまうのだった。昔、耳なし芳一さんという人がいたけど、耳を持っていかれちゃったんだよね。あれって誰に持っていかれたんだろう。可哀想。私は耳が聞こえなくなったり、耳を取られちゃったりしたくないから、嫌な話を聞くことになってもこの耳は必要なのだ。
「じゃあね」
「うん、じゃあね」
朋美の家の前で別れる。辺りは暗くなってて、変質者やお化けが出そうでちょっと怖い。ジャリっと音がするとビクっと身体が反応しちゃって、それで余計に怖くなって、私は小走りで帰途についた。
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