第36話
この日、私の家の最寄り停留所も危うく乗り過ごすことなく無事にバスを降りることができた。
そしてまたもあの喪服の女性は先に降りたのだろうか、姿が無かった。
一体、どの辺に住んでる人なんだろう。
小さな興味だった。
交通系ICカードをかざしてふとデジタル時計を見やると、またも『13:00』の表示が。
思わず目を開いて、
(今度は人の良さそうなおじさん運転手さんだったから)
「あの……時計の表示、間違ってませんか…?」とおずおずと申し出ると
運転手さんはちょっと苦笑い。
「あー、あれね~実は壊れてるんですよ。12時59分までは普通なんですけど、その後”バカ”になってきてるんですかね、うまく認識しないみたいで」
へ…そう言う理由…
ちゃんとした理由があったんだ。と、ちょっとほっ。
しかもその運転手さん前回の運転手さんと違って丁寧…と言うか人懐っこい感じで
「お客さんには迷惑掛けてるって分かってるんですがね、ほら。今みんなスマホで時間を見るでしょ?だから早急に直す必要がないって上から……、あ、これ内緒ね」
運転手さんは少しだけ泣き笑い。
「予算問題もありますしね。ちょっとびっくりしましたけど、確かに今の人って常にスマホ見てるから」と私が笑いかけると、運転手さんは心底ほっとしたように胸を撫で下ろし
この流れでこの前拾った乗車券を見せて見ようかと思った。
財布を開いて、いつも乗車券を仕舞ってある場所を開くと
あれ?
……ない。
「どうされました?落としものですか」親切そうな運転手さんが眉を寄せて
「いえ、大したものじゃないので。ありがとうございました」私は何でもない素振りでほんのかすか微笑み、バスを降りた。
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