第28話

私は目だけを上げて



「せめて『ここ、良い?』とかないわけ?」



ああ、可愛くないな…こんな自分。



けれど塩原はめげずに??と言うか堪えていない…と言うか慣れてる?



「ここ良い?」



今更ながら聞かれてもね。もうちゃっかり座ってるじゃん。



断れないじゃん。



まぁ断る理由もないし、イヤじゃないけど。



「例のスポーツクラブの件、どうなった?」と塩原に聞かれ



「んー、好感触って言うか、固まった」とあっさり報告しながらタブレット端末をスワイプしていると



「さっすが♪」と塩原の弾んだ声が聞こえて、私はまた顔を上げた。



「何が嬉しいの?私たち部署に戻ればライバルだよ?」



「ライバル…て言うか前川には勝てないって分かってるし。俺、負けるって分かってて無駄な努力しないの」



「努力、しろよ」思わず目を吊り上げると



「そ、だから初めてなんだよなー、『負けるかも』って思ってて努力したんは…」塩原はどこか物憂げの表情で割りばしを割る。



「それは……」



どう言う意味?



と言葉が出る前に



「お疲れ様で~す♪」



またも同じテーブルの椅子をがたつかせて、勝手に弓削くんが私の斜め隣に座ってきた。



結局、塩原の言いたかったことは分からず…



いや、何となくニュアンス的に感じ取ったけど…



て言うか、二人とも。私の了承を得てからにしてくれ。



これじゃまともに資料を見られないじゃない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る