第14話


ビールを頼んで最初の一杯を飲むとき、



「は~!仕事の後は美味しいっ!特にこの暑さだとねー」と私は豪快に笑った。



そう言えば塩原と二人で飲むのって初めてだな~…と改めて気付いた。



部署が同じだし、向かいの席だし、食堂で一緒になったことも多々ある。



なのに完全個室、と言うまさに二人っきりと言う状況は初めてだ。



「で?愚痴って?」



頼んだシーザーサラダを取り分けながら、単刀直入に聞くと



「いや、大したことないんだけど…」と塩原は言葉を濁す。



「何なの、あんたが愚痴を聞いて欲しいって言ってきたんだよ?」



ああ、だめ…顔がきつい上こんな言い方したら、塩原絶対ひくって…



早速後悔をしていると、



「まぁ愚痴はもう少し後で言うからサ、せっかく飲みにきたのに、いきなり辛気臭いのはイヤだろ?」と明るく笑う。



「何なのそれー」と口では言いつつ、良かった引かれてない。ってほっとした。



それから小一時間程、仕事の小さな愚痴や噂話で盛り上がった。



そしてその愚痴に経理部の女の子に付き纏わられて(?)と言う話も聞いた。



「何でよ、勿体ないな~、あの子可愛いのに」



「そうゆう問題じゃないよ」塩原は苦笑いでワインを一口。



「そうなの?」じゃぁどういう問題??



でも、案外ふつーだな。



私は普通に楽しんでいる。



最初は二人っきりと言う状況に、構えたけれど何てことない。ただの同期同士の会話。



昔話もした。



「なぁなぁ」



幾らか酒が入った塩原がほんの少し顔を赤くして切り出した。



「ん?」



何杯目かの赤ワインを飲んでいた私は目だけを上げた。



塩原は頬杖をついて、どこか遠い目をして…しかしどこか微笑ましい笑みを口元に浮かべながら



「前川、俺らがまだまだ新人のとき、営業先から会社に戻る時、バスの中二人して寝過ごしたことあったよな」



「あー!あったね、そんなこと」私は笑った。



「確か帰社予定12:00って言ってたのに、一時間も過ぎてて、あの時慌てたよね」



私は「次、何飲もうかな」と言う具合で塩原の話を聞き流しながら、メニュー表を開いていた。





「あのときサ、俺―――



寝てなかった」



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