第13話


短いようで長いランチから社に戻ると、向かいの席で塩原が真剣な面持ちでPCに向かっていて…



あー、やっとエアコンの効いた部屋。気持ちいーと実感しながら



ちょっとギリギリだったな、と思い



「ただいま戻りましたー」と一応挨拶を掛けると、後輩たちは顔をあげても挨拶することなくひたすらスマホに向き合っている。



まったく、イマドキの若者ってヤツぁ。



だけど、塩原だけはふと顔を上げて



「お疲れ~」と言いながら、自身のスマホを宙に掲げ画面を指さしながら何やら口パクで喋っていて



何?スマホ見ろってこと?



のろのろとスマホを取り出すと、塩原からメールが来ていた。



”今日19:00 居酒屋 唄(UTA) 集合。塩原で予約してるから”



と書いてあって、ご丁寧にも店のURLが添付されていた。この地図を見ろってことね。



URLを開くと会社からちょっと離れている場所に、その居酒屋はあった。でもホームページを見る限り、”The 居酒屋”と言う感じではなく、ちょっと小洒落たダイニングバーみたいな。



私はスマホを慌ててしまい(別に休憩時間内だし、スマホ見るのが禁止ってワケじゃないからいいんだけど)何故だか酷く後ろめたい気持ちになって、デスクのPCに向かい合った。



今日は何だかんだで事務作業が多く、あっという間に定時を迎えた。



塩原との約束は守れそうだ―――と思ったけれど…



塩原は定時になるとさっさと帰り支度をして、私も塩原より数十分後で仕事を終え、何とか約束した時間前に帰ることができた、つもりだった。



塩原の予約した時間をちょっと過ぎていて、殆ど走ってきたからか



ヤバっ



汗かいてるじゃん。慌ててハンカチで額を拭いながら「私、汗臭くないかな」とスーツに鼻をくっつけて、くんくん。



何やってんだ、私は。



たかが同期じゃないか。



ダイニングバーに向かい塩原の名前で予約していた席に通されたとき、塩原はちょうどメニューを開いて、



「お!お疲れ~♪」



気軽な感じで声を掛けられ



「おつ(お疲れ)」私も軽く手を上げた。



この気軽な様子からすると、本当に大した用じゃなさそうだ。



ほっとしたのと、ちょっと残念な―――



複雑だった。



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