古い乗車券

第1話

■古い乗車券



「ヤッば!もう12時過ぎてるよ」



それは誰からともなくあがった。



誰が言い出したのか今では覚えていない。



この日の飲み会は敦子あつこ奈津美なつみ塩原しおはらと私、と言う同期四人の飲み会だった。



ちょうどその時



「お待たせいたしました~、茶蕎麦です」と店員さんが緑色をしたかけ蕎麦を持ってきた気がする。



誰が頼んだのか分からない。きっとしめのつもりだったのだろう。



「え~、誰が頼んだの?」



「お腹いっぱい、食べれる~?」



大手飲料水メーカーに勤めていた私たちは部署こそ違えど、入社当時から研修時の席が近かったからと言う簡単な理由で入社からはや八年が経とうとしていたけれど何気に未だにつるんでいる。



気付けば、私は来月で30。



経理部の敦子は中学時代の同級生と(同窓会で再会したらしい、まぁありがちっちゃありがちだけど)結婚、総務部の奈津美は二年後輩の営業部若手ホープのイケメン彼氏と婚約中。まぁ奈津美は女の私から見てもかなりの美女だからお似合いっちゃお似合いだ。



塩原も営業部だし、男だけどこっちは、まぁまぁかな?



営業成績は悪くもなく、まぁまぁいい方。だけど顔も普通。性格は温厚??と言うか聞き上手。私たちの愚痴や噂話に笑って頷いたり、ツッコんでくれたりする。盛り上げ役とは言い難いけれど雰囲気造りがうまい。



まぁ可も無く不可もなくイイやつ。



私は塩原と同じ部署で営業部所属。



この日は某大手ショッピングモールの新しく設置される自販機に入るペットボトルジュースを競って私と塩原コンビで他社とのコンペのプレゼン結果発表の日だった。



見事うちが勝ち取って、そのお祝いに、と……確か敦子が言い出したんだっけ。



まぁ、彼女は飲みに行く理由が欲しかっただけだろうけど。



「いいの~?旦那さん家で待ってるんじゃない?」私がやっすい焼酎ロックのグラスをふらふらさせてからかうと



「たまには息抜き必要じゃない」と敦子は口を尖らせる。そのくせ時間を気にしていた……



そう、気にしていたのだ。



12時回ってると言い出したのは敦子だったんだ。



それぐらい、この日の記憶は曖昧だ。



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