余裕

「匡高さんが心の中に誰かを秘めているなんて、誰も責めることは出来ませんよ?」


「…え?」



 高森がまた驚いている。

 いやいや、だから「え?」じゃないでしょう?

 最初に自分から「結婚できない理由があるけど別れたくない女性がいる」って教えてくれたのはあなたなんだから。

 それに、婚約者のふりをしてるんだから、名前くらい呼んで合わせることくらいしないと。



「誰でも忘れられない人がいるはずです。匡高さんには秘密でしたが、私は初恋の男の子が忘れられません」



「ごめんなさい」、と余裕の雰囲気で高森に笑いかければ、「いや」と、高森からも笑みが零れた。

 その様子を見ていた高森と一馬さんを押えていた2人が、突然クスッと笑いだす。



「俺もいるな~。高校の時の彼女」


「俺も俺も。中学の時の部活のマネージャー」



 何故か話を合わせてくれた2人が、私に向かってニコッと笑ってくれる。

 この人達は味方のような気もするけど。

 取り敢えず、覚えたはずの素性が思い出せないので、気を許さず続けよう…。



「残念ですが、一馬さんが邪魔をしようとしても、私はそのくらいでは揺らぎませんよ? 出会いはお見合いでも、匡高さんには特別な感情をもう、持ってしまっていますから」



 敢えて “ 好き ” とか、そういう表現は使わなかった。

 私がそれを言うのは隆至にしか使いたくない、と思っている。

 ただ裏の顔を見せとけばいい。周囲を納得させればいい。

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