春人side
退院してから一週間は毎日、桜日のお見舞いに行っていたが朝から勉強しなければいけない日々が始まりだした。
勉強というのはあっという間で、朝すずめの鳴き声を聞きながら勉強していたらいつのまにか空がオレンジ色になっていたことなんてしばしばあった。
桜日はいつも通り元気にしていたし、俺の勉強の事を思ってだろうか、遠回しに早く帰れよ〜とか言ってくれた。俺はその言葉に甘えて、毎日勉強を続けていた。
退院して二週間後。夜、両親から話があると呼び出された。
「東京の方に医学の勉強を教えてくれる先生がいらっしゃったのよ。もうご定年されたんだけどね?事情を話したら、いつでも来なさいっておっしゃってたから、すぐにでも行ってみればどう?」
そう母さんが真っ直ぐ僕を見つめてそう言った。僕の答えは一つだった。
「もちろん、すぐに行くよ!」
「東京まで少し遠いから、往復して毎日帰るのは大変よ?下宿代を出しておくから、そこで一週間ぐらい泊まり込みでお勉強してらっしゃい」
「ほんと?ありがとう」
「その代わり、しっかり勉強してくるんだぞ」
「はい!」
そう返事をするとすぐ部屋に戻り、東京へ行く準備を始めた。
電車で三時間ぐらいかけて東京に行かなければならない。明日出発しよう。桜日にも伝えておこう。明日、朝一で行って伝えるんだ。
わくわくしながら荷物を詰め、ベッドへ入った。
いつもお見舞いには少しの花ぐらいしか持っていかないけど、今日は東京へ行くための大きなボストンバッグを持って病院へ向かった。
コンコン
「はーい」
そういつもの桜日の声がした。
ガラッとドアを引く。
「よっ、体調はどうだ?」
桜日は俺の大きなボストンバッグを見て少し目を見開いたが、すぐ俺の方をみた。
「元気だよー。てか、そのバックどしたの」
「俺、一週間ぐらい東京に行って医学の勉強してくる。だから、この一週間来れないっていう事を言いに来たんだ」
桜日を見ると、やっぱりしょんぼりしていた。
「そっか…。頑張れよ」
そう言うとすぐ微笑んでくれた。
「おう」
俺も返事をする。
桜日のベッドの隣にあった椅子に腰がけ、大きなボストンバッグを床に置いた。ベッドに座る桜日を見ると遠くをぼんやりと見ていた。呼吸も深くて、いつもの元気な桜日じゃないみたいだ。
「どした?しんどいか?」
桜日はゆっくりこちらを見て微笑んだ。
「全然、元気だよ」
「そうか。しんどかったら、すぐ言うんだぞ」
「わーかってるって。もう、いつまでお母さんみたいなこと言うのよ」
そう言うと桜日は笑い出した。俺も笑いかけてみせる。
まあ、一応病気だし、いつも元気なわけないか。そう言う時もあるよな。
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