桜日side

「ねぇ、まだ桜咲いてないのになんでこの時期も毎日見上げるの?面白くなくない?」


そう春人を見上げて言った。すると春人は枝の先を指差して言った。


「ほら、あそこ。先が黄色でしょ?あと一ヶ月もしたら花が咲くんだよ。花が咲いていくところをこの目で見たいんだ」


春人が指を指したところを見ると確かに黄色と言われてみれば黄色になっている。


「それ、去年も言ってなかった?十年も毎年見てるんだから、もう良くない?寒いし」


「俺は桜日みたいに飽き性じゃないからね。毎年毎年花を咲かせるけど、桜全体の形は毎年違うから面白いんだよ。まあ、まだまだ子供の桜日には分かんないだろうけど」


そう鼻で笑いながらこちらを見下ろして言った。


「なっ…。私と春人は同じ年の四月生まれだし。私の方が生まれたの早いし」


口を尖らせてふて腐れるように言ってやった。


「まだまだ中身が子供だっていうことだよ」


春人はゴツゴツとした大きな手で私の頭をくしゃくしゃとかき回した。


「ほら、もうそろそろ朝食の時間だし。戻るぞ」


「へーい」


ガラッと病室のドアを引く音がした。看護師の河北さんが入ってきた。


「桜日ちゃん、おはよう」


「おはようございますー」


「毎日よく食べるわねぇ。たくさん食べたら病気なんて治っちゃうからね!」


「それいつまで言うんですかー、ご飯食べて元気になれたら苦労しませんって」


笑いながらそう言ったが、我ながら子供のくせになんでも分かっているみたいなこと言ったなと少し後悔する。


「何言ってんのよー。病院のご飯は栄養バッチリなんだから!これからもたくさん食べるのよー」


「はーい」


まるでお母さんとの会話だなっと思わずクスッと笑みがこぼれる。


両親は私の医療費を稼ぐためにずっと働きっぱなしで朝はやくこんな会話なんてしたことがなかった。こういう何気ない会話も私は好きだ。


「そういえば桜日ちゃん、今日検診じゃない?どこか遊びに行くんじゃないのよ?先生だってお忙しいんだから」


「分かってますって。ずっとここにいますから」


そう言うと、河北さんはお皿を小さな配膳者に乗せ、ドアに近づいた。


「頼むわよ」


私に笑いかけてドアを引いて出ていった。

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