第4話


部屋に入った瞬間、ムっと異臭が鼻腔を刺激して思わず顔をしかめ口元を覆った。



酷い悪臭だ。この時季に生肉を長時間室温にさらして腐敗させたような。胃液がせりあがってきて思わず嘔吐くえずくと、すかさず部屋に居た女が彼女の背中をそっと撫でた。



「こんな中よく平気でいられるね。一体何なのこの臭い。もしかして…」すでに腐敗が進んでいるのだろうか……とは口にできなかった。彼女は部屋中に視線を這わせて途中、部屋の中央にあるベッドの向こう側に、シーツが乱れて床に垂れ落ちているのを発見した。鼻を覆ったままそのシーツが垂れ落ちている方へと脚を向ける。



ベッド横の床に、その姿は知っている実年齢より二十は老け込み、老人を思わせる人間が一人、転がっている。肉の欠けた骨と皮だけの体は弓形に反り、生気の感じられない青白い顔にはまるで狂ってしまったように、不自然な笑みを浮かべていた男。彼が目を開けてまるで彼女を嘲笑うかのように見上げていた。



一瞬目が合ったように思われたが、直視できずに思わず顔を逸らしたものの、その男から問いかけや挨拶はない。ここで実感できた。







本当に死んでいるんだ―――と。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る