Prologue

第2話

■Prologue



午後6時を過ぎ、初秋の夕暮れは逢魔時を絵に現したような、いわゆるお手本的な空だった。遠い山間に隠れようとしている太陽は黄色に近い赤で、対照的に空はまるで喪のチュールレースを一面に下げたようにどんよりと濁っている。



反射的に彼女はアクセルから脚を退けた。気付けば制限速度を50キロもオーバーしていた。



危ない、危ない。ここで私が事故ったら本末転倒だ。



と言い聞かせて、しっかりとハンドルを握る。その手はじっとりと汗ばんでいた。



逢魔時……古くから伝わる伝説でこの時間帯に魔物に遭遇したり大きな災禍を蒙るとか…



バカバカしい。ハンドルを握りながら自分の考えに嘲笑した。



単なる言い伝えごときに、何をビビッているのだろう。



まぁ災いには違いないけれど。



そう思うとまた意識が、それこそ魔物にさらわれるように引っ張っていかれる。慌てて頭を振り何とか自分を奮い立たせる。



今くたばってもらっては困る。



自分自身に言い聞かせた言葉に他ならなかったが、果たして自分に宛てた言葉なのだろうか。



車を飛ばしてもう2時間以上もこんなくだらないやり取りをしている。そのことにうんざりしたが、今は運転に集中しなければならない。



何せ、一歩先はガードレールもない急な斜面の崖だ。



奈落の底を思わせる暗い道が眼下に見え、彼女は頭を振った。





今くたばってもらっては困る。





このときも確かに彼女はそう思った。しかしこの問いかけはこのときばかり彼女自身に言い聞かせたものだった。



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