■Procession(前進)

第39話

■Procession(前進)




エレベーターの重い扉がゆっくりと開いて、柏木さんの手が俺から離れようとする。



名残惜しそうにもう一度手を握ると、柏木さんは困ったように眉を寄せてきた。



扉が徐々に開こうと、聞き慣れた機械音が耳の奥で響いて。



俺は諦めて手を離そうとした。






柏木さんは




完全に扉が開く瞬間、そっと“閉”パネルを押した。







エレベーターの扉がまた機械音を鳴らしてゆっくりと閉まる。



俺の目の前で、まるで外界からシャットダウンするかのように、きっちりと扉が閉まった。



柏木さんはくるりと振り返り、俺の方を向くと



しなやかな腕を俺の首へと回してきた。



柔らかくて華奢な体の感触を体いっぱいに感じる。





え……




なん……で………





柏木さんの指が“閉”パネルから離れたことで、一旦閉まった扉がまたも開こうとした。



きっと誰かが向こう側でエレベーターを呼んでいるのだ。エレベーターは8機もあるのに何ともタイミングが悪い。





ダンっ!






俺は乱暴に“閉”パネルを拳で押すと、片手で柏木さんを抱きすくめた。








「啓人―――」








柏木さんは俺の耳元で小さく囁いた。






“部長”でもなく“会長の息子”でもない。






唯一無二の俺と言う存在を―――






彼女だけが求めてくれた。



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