第32話


俺はその手には乗らない。



冷たいと言われようが、怖がられようが、関係ない。



「知らなかったからと言って解決する問題じゃない。分からなかったらどうして聞かないんだ」



できるだけ(俺の中では)優しく言ったつもりだが、緑川は今にも泣き出しそうに目を赤く充血させている。



「…だってぇ、みんな忙しそうだったからぁ」



そんなの問題にならねぇよ!!



苛々とした面持ちで、俺は受話器を取り上げた。



内線で経理部の外資物流事業部担当の若い社員に繋げると、相手も



『…いくら神流部長の頼みでも、一度あげた売掛金を変えることはできませんよ』と若干苛立った答えが返って来た。



外資だけでの取引先だけでも毎月40件以上ある。



ここと同じだけ殺人的に忙しい部署で、それらを一手に引き受けてるのがこの社員なわけで、殺気だってるのがまざまざと分かった。



「そこを何とか…。修正じゃなく赤、黒伝を切るから上手く帳尻を合わせてくれない?」



『僕の判断だけではどうにも……こっちの部長に相談してみます』



ぴしゃりと、そう言われたらこれ以上強くは出られない。



俺は承諾すると、内線を切った。



経理部長か……また大ごとになりそうだ。



俺は額に手をやりガクリと首をうな垂れた。



「先方にも修正の利かないことを説明したんですが、あちらも一度引き受けてくれたことを今更覆されても困ります、とのことで。こちらの申し出を飲んではくれませんでした」



相変わらず仕事の速い柏木さんが、しっかり先手を打ってくれたようだ。



だけどやはり一筋縄じゃいかないらしい。柏木さんは眉を寄せて俺を見てきた。





そりゃそうだ…



間違ってるのは明らかにこっちの方で。






って言っても何とかするしかないだろ!!




俺は席を立ち上がった。



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