第6話

み、緑川!!



なんて目ざとい奴!!



ぎくりとして、俺は目だけを上にあげた。



今日は柏木さんにワックスを借りて、多少セット力が弱いものの、髪もきちんと整えてきた。



髭は一日でそんなに伸びないから、今日一日ぐらい何とかなる。



寝不足を感じさせないよう、朝から栄養剤2本だって飲んだ。




なのに……



「まさか…どこかお泊りですか?」



ぎくぎくぎく~~~!!



暑くもないのに、やたらと汗が流れてきそうだった。



事情を知っている柏木さんが助け舟を出そうと、口を開きかけたが…



「緑川さん!」



佐々木のちょっと怒るような声で、緑川さんはびくりと肩を揺らした。



思えば佐々木がこんな風に声を荒げるのを聞いたことがない。



いつも温厚で、何事にも素直。



愚痴は零すが、怒りを露にしたことがない佐々木が…



「部長は!あなたの発注ミスを昨日一晩かけて対処してくれたわけですよ!!あなたのせいで!」



佐々木がキレた!!あの佐々木が!



ここのメンバーの中で誰よりも忍耐強いと思われる佐々木が一番最初に!!



意外なその現実に、俺と柏木さんは無言で顔を合わせた。



佐々木もよっぽど溜まるもんがあったんだろうな。






それにしても、佐々木は



どうやら勘違いしているようだ。



でも敢えて訂正はしないけど。ってかできない。



普段温厚な佐々木の声は、緑川さんをビビらせるのに、十分効果があったようだ。



「あたしの……ミス?」



「あ~…結果、片付いたからいいって」



それに半分は柏木さんに手伝ってもらったから、一晩ってこともなかったし。



「あたし、何が間違ってたんですか?」



「発注リストを全部一段ずつ間違えて注文入れてたみたいですね。今後は気をつけてください」



柏木さんが会話を絞めくくった。



佐々木はあま怒り慣れていないのか、どこか消化不良の顔つきをしていたし、そんな佐々木に怒られ緑川さんはしゅんとうな垂れているし、柏木さんはできるだけ関わりたくないという感じだ。





何だか不協和音だった。



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