第96話

「待ってて欲しいなんて頼んでません」



本気で迷惑そうな顔をする美紅を見て、右京の胸がまたズキンと痛む。



でも、



「もし美紅を一人にして何かあった時に、“やっぱりあの時送れば良かった”と後悔するよりは、今美紅に迷惑がられて嫌われる方がずっといい」



美紅を守りたいと本気で思っているので、自分の行動に悔いはない。



(本当に、右京先輩のことなんか嫌いになれたらいいのに……)



美紅はどうしたって右京を嫌いになれない自分が情けなくて、黙ったまま俯くことしか出来なかった。



「帰ろう、美紅」



歩き出したその広い背中に、



「……ありがとうございます、右京先輩」



美紅が恐る恐る声をかけると、



「美紅のそういう素直なところも可愛いよな」



体ごと美紅を振り返った右京が、ふわりと優しく笑った。



「……っ」



美紅は右京を突き放すようなことを散々言ったのに、これのどこが素直なのか。



もし美紅が本当に素直な子なら、



(それなら、今頃はとっくに先輩に告白してるもん……)



きっと真っ直ぐに気持ちを打ち明けているはず。



けれど、フラれた後で気まずくなって、今までのように接してくれなくなったらと思うと――



(今はまだ、もう少しこのまま……)



この、何と表現すればいいのか分からない曖昧あいまいな関係の方がいいような気がして、結局は何も伝えることが出来なかった。

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