第50話 闇堕ちスキル(ブレイズside)

 準決勝。


 ジャックは先に決勝進出を決めやがった。

 準決勝からは観客席で試合を全員が観覧する。


 ゲイルのアホが負けた相手、ハロー。


 あいつを翻弄するほどの実力者でも、ジャックには勝てない。

 あたりめ―だ。

 オレのライバルがオレ以外のやつに負けてどーする? オレも決勝進出決めて、あいつと戦いてぇ。


 相手は光系のスキルを持つルミナス・グローリー。

 オレがエリートクラスの中で1番気に食わない――フロストなんかよりもずっと気に食わないやつだ。


 控え室にもなっている暗い廊下で、やつと会った。


 ジャックとハローの準決勝も終わり、客席が大歓声に包まれてやがったとき、グローリーからオレに話しかけてきた。


「ブレイズ」


「あ?」


 急に馴れ馴れしく名前で呼ぶんじゃねぇ。

 しかも、あいつの声は陰気で聞こえづらい。


 オレとの対戦を怖気づいてんのか?


「君はジャックが転生者であることを知っているね?」


「だったらなんだよ? てかなんでおめぇが知ってんだ?」


「やっぱり。君たちはすっかり仲がいいみたいだ」


 不気味に微笑んでるのがもっと気に食わねぇ。

 今すぐ殴ってやりたい。

 炎を呼び出し、ちりじりになるまで焼き焦がしたい。


「僕はある信頼できるお方からジャックの情報をもらってね。君は決勝戦でジャックと戦いたい、なんて思っているかもしれないけど、それは僕がやらなくてはならないんだ。ジャックを決勝で痛めつけ、あの方に息の根を止めてもらう」


「できるもんならやってみろ。オレが阻止してやる。おめぇを準決勝で完膚なきまでに叩き潰すことでな!」


 グローリーのクソは、オレのことを鼻で笑って戦場に出ていった。



 ***



「先ほどのバラエティ豊富な準決勝で、見事ジャックくんの勝利が決まった! いよいよこの準決勝で、ジャックくんとの対戦者、優勝への挑戦者が決まる! この風、もっともっと吹いてくれ!」


 グローリーは最初から、ずっと微笑んでやがる。


 対戦開始の合図が出ても、1ミリも動こうとしねぇ。

 オレが熱い炎でもぶっかけてやれば、やつも目を覚まして応戦してくるか?


 それか、これは罠か?


 わざと油断させて、近づいたオレをやるつもりか。

 やっぱりグローリーは嫌いだ。


「おい! おめぇジャックのこともオレのこともナメてんのか知らねぇが、あとで後悔させてやるからな!」


 準々決勝でも出さなかった、最強クラスの炎を放つ。


 ジャックには超されていた、はるかに大きかった炎。

 今ではオレの炎は誰にも負けるわけがない! 


 この最強の炎を見ろ!


 どんなものでも焼き焦がす太陽だ。


「ファイヤーブースト!」


 グローリーには攻撃をかわせるだけのスキルがねぇ。


 こいつが勝ち上がってることくらいなんとなく考えてた。

 準備期間で調べてきたクラスの連中のスキル。


 グローリーは光を放って相手の視界を奪ったり、光線を浴びせて攻撃する程度のスキルしか持ってねぇ。オレの強化したスキルの前では、ひざまずくことしかできねぇんだ。


「残念だな、ブレイズ」


 こいつ……。


 まだオレの炎を浴びてやがる。

 炎の中から、落ち着いて声を返しただと!?


 そんなはず──。


「結局は君も、ただのひとつのスキルに頼りっぱなし。ジャックのように様々なスキルを使いこなすことはできないわけだ」


 攻撃をやめた。


 最大威力の炎で包んだというのに、やつは傷ひとつ受けてない。

 笑顔でオレを見ていた。


 こいつ……一体……。


「そこで僕は気づいたんだ。スキルを増やしてしまうことが、ジャックに勝つための1番の戦略だ、とね。それなら、わざわざ努力をしたりせず、ちょいとスキルを使って──」


「おめぇ今なんて言った? おい? 今なんて言った!?」


 態度が気に食わねぇ。


 すました顔が気に食わねぇ。


 放った言葉が気に食わねぇ。


「努力をしないだと? 誰だって努力してここまで戦ってきたんだろうが! おめぇみたいなクズ、オレが──」


「君にできるのかい? 本気の炎を僕に防がれた、『無能の』君が」


 !!!


 無能……。


 オレはずっと、ジャックにその言葉を浴びせてた。

 実力を持っておきながら、熱い心が見えないやつのこと。


 オレはそれが無能だと思ってる。


 やるなら本気で、自分の力全部出し切れ。

 オレがここまでやってきたのは、この言葉をモットーに生きてきたからだ。


「おめぇは努力が何かわかってない」


「急に何を言い出すかと思えば……新しいスキル『闇落ち』を手に入れた僕にとって、君はただの遊び相手に過ぎない。努力なんてしても報われないから、こうしてスキルをあの方にいただいた。君も欲しいかい? 素直に負けを認めて、これから僕の下僕として忠誠を誓うのなら、あの方に頼んであげなくもない」


「そんなもんいらねぇ。おめぇに何があったのかは知らねぇけどよ、本気で物事にたぎってたら、いつの間にか報われんだよ、あ? そんなクズに、オレが負けるわけが──」


 グローリーが手を上げた。


 オレの体に黒いもやみたいな汚いものが集まってきて、オレを包む。

 払おうとしても、余計にもやが濃くなるだけだ。


 くっそ。


 オレは絶対に負けるわけにはいかねぇんだ。

 あいつに──ジャックに勝つんだ。


「それは拷問だよ。君が泣き叫ぶほど苦しまないと、僕が解除したいと思ってもできない。地獄の苦しみを、味わうことになるからね。それでも、努力がどうとか、本気がどうとか言い続けるつもりかい?」


 やつの顔は完全なサイコパスだった。


 苦しくても、オレは自分の言ったことを取り消そうなんて思わねぇ。

 本気で叶えたいと思う熱い心が、野望を実現させる。


「せいぜい苦しみな。そして君は、友人のジャックの命が奪われていく瞬間を、苦しみながら見ていることしかできないわけだ」

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