第40話 異世界でできた友達
タイフーン先生には、安静にしているよう言われた。
きっと、まだショック状態が続いているように見えたんだろう。
確かに、俺たちは震えていた。特に、俺とリリーのふたりだ。リリーも俺が転生者であることは知っているし、あのとき恐怖に顔がこわばっていた。
サンダー会長も、例の真剣モードで先生についていった。
学園長のところまで、一緒に行くつもりだろう。生徒会長だったら、それもできそうだ。
3人の間に、少し前の気まずさはなかった。
もう一致団結してしまったような気がする。同じ恐怖を経験すると、仲間意識が芽生えるっていう心理学の効果か。
俺の取り合いはしばらくないかもしれない。
***
図書館に人は少なかった。
やっぱり、ほとんどの生徒が外出している。
あんな狂気の包帯男がいることを知らずに。
「ふたりとも、ごめん。俺が無理にあんなとこまで連れていかなければ──」
「ううん、そしたらもっと危険。怖かったけど、ジャックくんが一緒だったから大丈夫だったもん」
俺をそこまで信用するな、と言いたい。
確かに強いかもしれない。だが、この強さがあの包帯男に通用するか、本気でわからなくなっている。
自信喪失とは違うが、不思議とあの男にだけ無力な自分の姿が浮かび……。
やっぱり、あの姿が恐怖をあおっているのか?
「ねね、転生者って、何?」
ハローちゃんが聞いた。
ずっと聞きたくてしかたなかったらしい。
恐怖を味わっていながらも、その根っこにある好奇心は失われていなかった。
大切な友達には、自分の秘密を言うべき。
前世ではそんな友達なんてひとりもいなかった。今では3人に収まらないほどいる。
「俺は転生者なんだ──」
そうして、ハローちゃんにも自分の秘密を打ち明けた。
俺が転生してこの世界に来て、チートなスキルを女神から授かったこと。
このスキルは『適応』といって、テストでいい成績が取れたことも、首席で合格できたのも、全部このスキルのおかげだったこと。
質問が続けてくるかと構えていたが、ハローちゃんは真剣な表情で黙って聞いてくれた。
ゲイルとリリー、そしてあのタイフーン先生とイーグルアイ先生だけがこの秘密を知っていることも説明した。
「ジャックくんがすごいってことは、ずっと前から知ってる」
ハローちゃんもリリーと同じく、俺を軽蔑することも、失望することも、変人を見るような目で見てくることもなかった。
正直、よくわかっていない可能性もある。
俺自身、自分のスキルについても、転生者のことについても、知らないことは多いわけだ。
それを異世界の現地住民が急に理解できるなんて無理な話だ。
俺が今何よりも気になっているのは、あの包帯男が言っていた、2代目の転生者って内容。
2代目が俺だというのなら、1代目はあの、先生たちが言っていた転生者のことだ。
あいつがその転生者のことを知っているなら、それまでに関係のあった人物だとわかる。
つまり、もしかしたらイーグルアイ先生やタイフーン先生はあの包帯男を知っているかもしれない。
まあ、知っているとしたら包帯の中の、人間の男だろうが。
「でもね……」
ハローちゃんが続けた。
「なんでリリーちゃんに先に言ったの? あたしに先に言ってほしかった」
また泣き出したぞ、ハローちゃん。
こればかりはどうしようもない。
リリーには絶対にあのとき言う必要があった。確かに前からハローちゃんにも伝えておくべきだったのかもしれないが、3人までという約束に縛られていたから慎重だったわけだ。
「ジャック、やっぱりきみも図書館で勉学に励んで……」
朝にも聞いた声。
ここでフロストが俺のところにやってきた。図書館といえば、フロスト。ここに来て彼と会わない方が珍しい。
俺が勉強してるのかと思って感心したようにこっちに来たが、両サイドを美少女に囲まれているこの状況を見て、顔が引きつった。
変な誤解をされてないといいが。
それに──。
「フロスト……俺、まだ伝えてなかったことがあるんだ」
フロストの目が大きく開く。
「どうした? 何か緊急な──」
「いや、そういうわけじゃない。ただ──」
そうして、今日何度目だっていうくらいの、説明タイムが始まった。
どうせなら、ハローちゃんと同じタイミングで現れてくれていたらなぁ。そしたらこんな連続講義をしなくてよかったのに。
まあ、そんな都合よくことは運ばないか。
「そういうことだったのか……」
フロストはショックを受けているのか、感心しているのかわからない。
中途半端な反応だ。
感情をそこまで表に出すタイプでもないので、少ない表情の情報から気持ちは予測しにくかった。
「まったくジャックという男は、ぼくとはレベルが違う。別の世界からやってきたということは、はるかに経験も知識も上だ。だからいつも余裕なのか」
いつも余裕じゃない、って言うのはやめておいた。
ほんと、みんな優しいよな、って言うのもやめておいた。
軽蔑されるかも、と思っていた自分が情けない。もっと友達を信用してもいいんだ。
そしてこのときは、あとからゲイルのもっと感動的なサプライズが待っているなんて、完全に忘れていた。
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