第36話 光系スキルを使う女戦士
最後の対戦相手、まさかの参戦、ここのオーナー。
スタイルがよく、しなやかな体。
戦いにくそうな相手ではある。
確か、名前はシャイン・ブライトといった。
ブライト家は有名な光系のスキルを操る家系。
光系といえば、俺の『適応』の範囲から外れた、俺が使えないスキルのひとつだ。
大きな声援とともに戦いが始まった。
まずはお互いに警戒して、その場からじわじわと距離を詰める。
目はしっかりと合わせていた。
彼女が俺を見る目はまるで野生のトラのよう。
そこから感じる強い殺気。
まさか、俺を殺そうと思ってるんじゃないよな?
「タイフーン先生に負けたのか?」
ここでひとつ挑発しておいた。
たいていの人間は、自分が負けた相手の話になると機嫌を悪くする。ここで相手を精神的に動揺させるのも、俺が本気になったという証拠だ。
さあ、どう動く?
これくらいでは動揺しないか?
「あいつはうちの同級生だ、ストロング。それはもう優秀なやつだったよ!」
動いた。
足だ。
単純な蹴りの攻撃。これなら少し首を右に振るだけで回避できる。
そこからシャインが攻撃を仕掛けることは難しいだろう。
そのキックで体勢が大きく崩れるからだ。
そこに俺が風で方向感覚を失わせ、強烈な炎を浴びせる。
勝利の道筋が立った。
だが──。
「甘い!」
まさか!
今まで浴びたことのない光が俺の視界を遮った。
目が痛い。視界が完全に奪われることは初めてだ。きっと観客も同じものを浴びていることだろう。
目を開ける前に、強烈かつ単純すぎるさっきのキックが、俺の腹にまともに入った。
「うっ」
こんな攻撃をくらうとは。
視界が自由になると、俺の体がフィールドの壁に叩きつけられていることがわかった。
背中の骨、もしかしたら折れてるかもな……。
「その状態で戦えるのか? うちの優しさで、戦いはここまででってことにしてやるよ」
「それは断る!」
俺は急いで背中に回復魔術をかけた。
背中全体にヒール効果が広がり、さっきまでの痛みは消える。
今度は俺が攻撃する番だ。
まだ痛みにうなっていると思っているシャインのところまで、スキル『大跳躍』を使って1回で移動した。
実はこれは単純に筋力を強化したことでできるようになった努力の技。
俺もしっかり、努力してるんだからな。
「ほう、うちの蹴りをくらって降参しないやつはタイフーン以来だ」
「俺の視界を奪ったやつは初めてだったな」
そう言いながら、突風を起こす──。
その構えを見せた瞬間、シャインの表情が変わり、すっと警戒の体勢を取った。
確実に俺の風を警戒している。
つまり、まだ風には効果があるということか。
それとも、もう対策済みということか。
少なくとも、俺はそんな単純な男じゃない。
風を繰り出すように見せておいて、細かい氷のつららをシャインに放った。
「つらら、だと?」
やっぱり、これには対応できなかったか。
素早さも熟練されていた俺の「アイススマッシュ」で王手だ。
「それと、また新しいスキルを見せてやる! ウォータースプラッシュ!」
今度は水。
噴水のように勢いよく噴射した水は、つららのあとから追い打ちをかけるように、シャインに向かっていった。
「すごい威力の蹴りと、光だった」
ここまで戦いで厳しい状況に立ったのは久しぶりのことだった。
全力で、使えるスキルを駆使して、戦う。
なかなか面白い。
また何か、大きなことを学んだような気がした。
***
「ジャック・ストロング、あんたの強さに惚れた。もしまた休日があれば、絶対にこのフィールドに来いよ」
で……俺たちがフィールドを去るとき、あのシャインにそう言われた。
「やはりジャックはすごい……スキルをいくつ持ってるんだ?」
「いや、実は俺、転──」
「ジャックに負けないよう、ぼくも努力して多くのスキルを身につけないと」
なんか、フロストの頑張るべき方向性が違うような気もするが……。
秘密を打ち明けようと思っていたが、その必要はなさそうに思えた。
俺がそうしてスキルをいろいろ使えることを、ただいつものように努力で成し遂げたと思っている。
で、それなら自分もスキルのために努力を、と。
ま、それが彼のモチベーションにもなるんだったら、何も言わない方がいいのかもな。
「ああ、頑張ろう」
そうして、フィールドを笑顔で去ったわけだが──。
じ、時間が……。
今はなんと午後12時54分。
街の大きな時計台にそうあった。
てことは、あと6分でリリーとの約束の時間だ!
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