第35話 もう吹っ切れたのでスキル全解放

 俺とフロスト、ベストウォーリアートーナメントでもあるかもしれない、貴重な戦い。


 テストのときでもなかった、直接対決だ。

 

 だが、ここで大きな問題が生じる。

 俺はどうやってスキルを使えばいい?


 前にもわかった通り、フロストは俺のスキルを完全に炎だと思ってしまっている。他にもいろんなことができることがわかれば、何かあると怪しまれるのでは?


 それに、ここには大勢の観客がいた。

 話題になることは間違いなしだろう。


 よし、ここでも炎のスキルだけを使って、フロストに勝とう。実際のベストウォーリアートーナメントでも、そうやって炎だけで勝てるはずだ。そこに剣術を合わせて、うまく乗り切れば、きっと優勝も見えてくる。


 いくら本気で優勝を目指すと決めたからといって、スキル『適応』を完全に発揮してしまうとは限らない。


「ドラゴンファイヤー!」


 これは実技試験のときに使った強化魔術だ。

 スキルが加わることで炎が爆発的に大きくなっている。


 ドラゴンと何度も戦ったことで、熟練されている技だった。


 観客の大歓声。

 これでフロストも──。


 !!!


「ブリザードクラッシュ!」


 俺の攻撃は上手にかわされていた。

 かと思うと、息をつく間もなく吹雪の攻撃を繰り出してくる。


 完全に射程圏内に入っていた。

 フロストの本気の攻撃を、まともにくらう。


「しまった……ファイヤーウォール!」


 なんとか炎の壁で吹雪を防ぐものの、そのせいで足場が乱れた。


「ぼくだって、本気で優勝を狙ってる、ジャック!」


 飛び出したフロストと、目が合う。

 白銀世界の中にいるその瞳。


 本気だった。


 ベストウォーリアートーナメントも、きっとこれ以上の力を出してくるだろう。

 あの実技テストから、確実に実力をつけてきている。


 俺はどうだ?


 あの実技テストも、全力でやったかと言われれば、まだまだだっただろう。

 あのとき、学んだじゃないか。本気で挑んでくるジャックに、俺も本気で挑まないと失礼だ、と。


 なんでそれを、フロストに対しても考えなかった?

 炎のスキルだけで勝つ?


 フロストは毎日努力を重ねている。その目的は俺を超えるためでもある。友人でもありながら、俺を尊敬してくれているのは、俺の実力、そして努力が認められたからだ。

 がっかりさせるつもりはない、フロスト。


 おかげで吹っ切れた。


「俺も本気だ! アイスブレイク!」


「氷系スキルだと!?」


 発動したスキルは、巨大な氷のつららを相手に向けて放つ、アイスブレイク。

 単純な魔術ではカバーできない、スキルならではの氷系の能力の大きさが伴う。


 これにはフロストも、観客も、あのオーナーもびっくりだっただろう。


 これで俺のことがビッグニュースになったとしても、悔いはない。

 女神だって、前の転生者のことは教えてくれなかった。そう、こういう意味でも吹っ切れてしまったわけだ、俺は。


 フロストは間一髪で攻撃を受け止めた。

 さすがに氷の男に氷の攻撃はあんまり効かなかったか。


 だが、もう俺は吹っ切れている。


 炎と氷だけじゃない。

 まだまだ、見せたいスキルはいっぱいあるんだから。


「マキシマムトルネード!」


 いかにも厨二病っぽいセリフを呟き、攻撃を繰り出す。

 嬉しいことに、この世界では厨二病は歓迎されるわけだ。


 フロストと目が合った。


 まいった。

 きみには負ける。


 そんな言葉が聞こえてきそうな目だった。

 だが俺は、ベストウォーリアートーナメント、決勝で待ってる、といった視線を送った。

 まあ、うまく伝わったかはわからないが。


 そうして、フロストは風に巻き込まれ、地面に叩きつけられた。


「フロスト・ブリザード、戦闘不能! よって、優勝者はジャック・ストロング!」



 ***



 フロストはすぐに回復した。

 地面に叩きつけられたことで軽い脳震盪を起こしていたらしい。


 そうして俺は優勝者として表彰されることになったのだが……。


「このトーナメントの伝統で、優勝者はうちとの対決に勝利してから、本当の優勝者である、という伝統がある。よって、ジャック・ストロングはまたフィールドに戻ってくるように!」


 オーナーの女が言った。

 それはもう、観客の大盛り上がり。


 聞いた話によれば、このオーナーに最後勝ったことのある優勝者はひとりだけいるらしい。

 で、そのひとりというのがあのタイフーン先生だ。


「最初はあんたをナメてたけど、なかなかやるじゃない」


 これは挑発なのか?

 本当は俺の力を恐れているはずだ。タイフーン先生にやられているということは、風のスキルを使用できる俺は、脅威でしかない。


「言っとくけど、うち、シャイン・ブライトは、あのウィンド・タイフーンに負けたときからしっかり風は対策してるんだ。あんたがどんな攻撃をしてこようと、負けないよ」


 知らないな、この女。

 俺の本当の強さを。


 俺はジャック・ストロング──その名の通り、強い男だ! もう迷いはない。スキルを好きなだけ使わせてもらおう。

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