第32話 究極の選択を迫られる

 あれから数日が過ぎた。


 リリーとはいつも通り話しているものの、告白の返事はしていない。

 ハローちゃんは前以上に話しかけてくるようになった。だが恋愛とかいう話はまったくない。


 で、イーグルアイ先生とタイフーン先生。


 ふたりも、俺を普通に生徒として見る以外、特別に関わってくることがない。


 何かを期待してたってわけじゃないが、何も起こらなすぎじゃないか?

 

 その代わり、また別のことが進展を迎えることになる。



 ***



「このトーナメント戦、オレが絶対におめぇに勝つ!」


「オーマイガー、おれのこと忘れてもらったら困る! なんてったって、おれはアクロバットダンスクラス代表なのだから!」


 ブレイズとゲイル。

 厄介者のトップ2。


 ブレイズは俺に勝つことに闘志を燃やしているし、ゲイルはクラスの代表になったからって、かなり調子に乗っている。


 ゲイルはすごいよ、うん。

 それは認める。確かにアクロバットダンスは見事だった。


 だが、もうそれはいいじゃないか。


 次はトーナメント本戦に向けての、戦闘力の向上に努める。


 放課後の図書館。

 俺は珍しくゲイルなしでここに来ていた。図書館は俺にとって大切な場所だ。


 俺のスキル『適応』を進化させるコツが、本に書いてあるのかもしれない。

 先生たちの話を受け、このスキルを知り、強化させることが、自分の破滅を救う方法になるかもしれない──そう考えた。


「ジャック、今日も熱心だな」


 フロストも当然図書館にいた。

 彼は毎日図書館に通い、夜遅くまで勉強している。


 基本的に授業は実技の練習が多くなっているこの時期、座学は自分で勉強していくしかないんだ。


「どんな勉強を?」


「トーナメントで勝つための勉強だ」


 俺は答えた。

 机の上には本が山積みになっている。


「これはスキル学応用の、上級生が使うようなレベルの高い本! ぼくには到底理解できない……やはりトップは違うというのか……」


 また俺に感心しているらしい。


「スキルは俺にとって大切なんだ。しっかり勉強しておかないと」


「そういえば……ジャックは炎のスキルを……ぼくと正反対だ」


 うっ。

 痛いところを突かれた。


 そう、フロストも俺のスキルを『炎』だと思っている。ブレイズと同じように、火力の高い炎を操る、と。


 ていうか、クラスのほとんどがそう思っているだろう。


「確かに、そうだな」


 嘘をつくことになるのか?

 俺のスキルの範疇に炎は入る。スキルじゃない、わけでもない。だが、『炎』が俺のスキル、ってわけでもない。


「トーナメントの本戦で戦えることが楽しみだ、ジャック。そういえば、明日の休日はどうする? もしよかったら、一緒に学園の外に遊びに行かないか? いい気分転換になると思う」


「遊びに……」


 そう、明日はなんとユピテル英才学園の創立記念日とかなんとかで、生徒も職員も強制的な休日となっている。

 寮で休む、もしくは学園の外に出る。


 クラブ活動も禁止で、絶対に休まないといけない。

 

 日本にもそんな日があれば、もっといい世界だっただろうに。


「どうかな?」


 そんな顔で見つめられたら……。


 フロストは最近やたらと俺を見つめてくる。

 尊敬する者を見つめる目だ。


 他の人に対しては冷たいのに、俺だけには超がつくほど優しく、温かい。


 ちなみに、ゲイルもブレイズも、一緒にご飯を食べる仲ではあるが、まだ認めていないようだった。


「いいと思う。ゲイルも一緒に──」


「ふたりで、行かないか?」


 ここは強引に持ってくるフロスト。


 俺のことめっちゃ好きじゃないか。

 嬉しいが、そもそも俺を好いてくれているのは俺が実力者だから。この実力はある意味チートスキルの賜物だから、騙しているようで申し訳なくなる。


「わかった。そしたら、まずは行き先を決めよう」



 ***



 フロストとの遊びの約束も終わり、午後9時、俺はようやく図書館を出た。


 フロストと話したりもしていたが、ちゃんとスキルに関しての勉強はできたし、何冊か本も借りておいた。

 もちろんフロストはまだ図書館にいる。

 11時の閉館時間までいるつもりだろう。


 明日は初めて、この学園に入ってゆっくり休める日だ。


 新しい友人のフロストとも仲を深められるいい機会になるかもしれない。


 そこに──。


「ジャックくん、そこにいたんだ」


 !!!


 その声は──。


 リリー。


 肩にかかる滑らかな金髪。

 透き通った青色の目。


 そして何より、その性格のよさ、純粋さ。


 ちなみに、俺のことが好きだ。


「夜遅いのに、どうして?」


 って、いかにも心配した感じで言ったが、なんとなく言うことはわかっている。


「明日、その……一緒に劇場にい──行き──行きましぇんか?」


 か、可愛い。


 俺はどうしてフロストと先に約束した!?


 いや、フロストは悪くない。

 悪いのは全部この可愛いリリーだ。


 風呂上がりなのか、かなりの薄着。

 もう少しですべすべ、ふわふわのあれが見えるところだ。美少女がそんな格好で廊下を歩くのは、襲ってくれと言っているようなもの。


 どーする!


 なんて言えばいい!?


 ここまで動揺することは今までなかった。

 もしかして、俺はリリーのことが……いや、そんなわけない……のか?


 今からフロストとの約束を断りに行くわけにはいかない。

 すっごく楽しみにしてる顔だったんだ──あのフロスト・ブリザードが。その温かい光景を崩すなんてできない。


 じゃあ、俺は──。

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