第12話 最強スキル『適応』
俺のスキル。
最強とされるスキル。
オールマイティーな力を持ち、スペックが高い。
それこそが『適応』だ。
「あなたにはスキル『適応』を授けましょう。このスキルを使えば、すぐに異世界の慣れない環境にも適応することができます」
死んでから少しして現れた女神。
今まで見てきたものの中で1番美しく、希望に満ちていた。
「あなたが命を落としたことは非常に悔やまれるべき事態。そんなあなたには異世界で活躍するチャンスを与えたいのです」
「どうして……どうして俺にそんな期待を?」
女神が微笑む。
その瞬間俺の心の中も浄化され、透き通っていく。
「前世でのあなたの生き様は素晴らしいものでした。そのままだと世界をよりよい方向へ変えることができていたのかもしれません。しかし……あんな惨い最期を……」
俺は何も言えなかった。
確かに俺の最期は最悪だった。痛みと苦しみに満ちていて、どこにも希望のない終わり方だった。
「あなたには異世界でこのスキルを使い、悪の根源を断ち切ってほしいのです。今危険にさらされている世界が存在します。そこには魔法が存在し、多くの人間が魔王に立ち向かう戦士になろうと、日々訓練を重ねているのです」
「そんな世界が……」
それに比べれば、俺の生きてた世界は平和だったのか。
「あなたはその世界で新たにジャック・ストロングとして転生し、16歳からユピテル英才学園に入学していただきます」
「ユピテル英才学園?」
「はい。優秀な学生が集う戦士になるための学校です。入学試験では全力で挑んでください。周囲は強いライバルばかりですから」
「16になるまでは何をすれば?」
「ひたすらスキルを磨くのです。あなたのスキルは使えば使うほど強力になります。さらにはできることも増えていきます。多くのモンスターと戦い、多くの人と関わるのです。そうすれば十分にスキルを伸ばした上で入学できるでしょう」
女神の言っていることがよくわからなかった。
だが、それもそのうちわかるようになるだろう。詳しく聞こうとはしなかった。
「約束がひとつだけあります」
急に女神が真剣な表情に変わる。
俺の気も引き締まった。
「はい」
「あなたが転生者であること、スキルが『適応』であることは、信頼できる3人にしか言ってはなりません。当然ながら、前世の記憶を語ることも同じく」
「俺の親となる人にも?」
「親ならば余計にショックを受けるか、真剣に受け取ってくれないことでしょう。親に言うことはオススメできません」
「それなら誰に──」
「なんでも正直に話せる親友。そんな人が、できるといいですね」
***
あのときの女神の顔は忘れられない。
学園を静かに目立たず卒業したかったのも、秘密を守るためだ。
なんでも正直に話せる親友。信頼できる親友。
俺はゲイルにだけ秘密を話した。
目立たないことだと思っていた。
自分の秘密を守るためには目立たないのが1番だと思っていた。
だが今回、少しだけ気づいた。
全力で頑張っているやつがいる。俺が余裕を見せて実力をセーブしているのに対し、全力で俺にぶつかろうとしてくるやつがいる。
そんなやつらに、俺は失礼だったんじゃないか。ブレイズは全力なのに、俺は全力じゃなくてもいいのか。
「ブレイズ!」
俺はここに来て初めて、情熱的に叫んだ。
「あ!?」
ブレイズが鬼の形相で俺を睨む。
全身が燃えていた。きっと今は守備魔術を自分にかけているところだったんだろう。
「俺は本気で君に勝つ!」
「いいじゃねーか! おめぇ、やっとその気になったのか!!」
その顔とは打って変わって、どこか嬉しそうだった。
熱いタイプは苦手だったが、今ではむしろ自分の闘争心をかき立てるいいエッセンス。俺の味方だ。
「来い! ドラゴンファイヤー!」
ブレイズに影響されたのか、俺が放った攻撃魔術は炎系。
炎の魔術系スキルを持っていないと、到底できない技だ。
今まで戦ってきたドラゴンの炎を応用した。
これがチートスキル『適応』の力。
今までくらったことのあるスキルに適応し、自分もそのスキルを使いこなすことができる、というものだ。もちろん、そんな簡単なものではなく、それを受け止める肉体と精神、そのスキルの訓練なしにマスターすることはできない。
だが、このドラゴンファイヤーは俺の中で熟練した技だった。
「おめぇ、それは……」
ブレイズも俺の攻撃魔術をはっきりと見ていた。
炎の使い手だからわかるんだろう。今やった技がどれだけ難しく、凡人にできないのかが。
「ファイヤーウォール!」
次に繰り出したのは同じく炎系。
自分の前に炎の壁を作り、攻撃から身を守るための守備魔術だ。
これもまた、何度も使ってきたので熟練されていた。
「まさか人間ジャックが炎のスキルを隠し持っていたとは。それは訓練では成し得ない、先天的なスキルの力を要する技である。燃え上がる炎のごとく加点しようではないか。イヒヒ」
こうして、クラスメイト全員の魔術基礎の実技試験が終了した。
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