第9話 期待を破るも面白かったブレイズ

「いやぁ……痛かったよ、ジャックくん」


 勝負はもうとっくについていた。


 俺の圧倒的勝利。

 タイフーン先生が積極的な攻撃をすることが許されていなかったにしろ、今回の勝利への感心の声は多かった。


 スキルを使って風を起こし、渋い顔をしながら俺たちのところに戻ってくる先生。

 

 怪我はなさそうだが、かなり痛そうだ。

 もちろんタイフーン先生を崇拝する数名の女子生徒からは怒られた。


「先生にあそこまでする必要ないでしょ!」


「あれはさすがにやりすぎよ!」


「先生にお怪我がなくてよかったですわ」


 はぁ。

 結局こうなるよな。


 ブレイズの目は燃えている。


「おい、おめぇ。剣もやるじゃねぇか」


 今もなお挑戦的な目で俺を見ていた。

 闘争心むき出し。だが今までの見下すような態度はない。そこには俺へのリスペクトも少し含まれているんじゃないかと、俺は思う。


「少しやりすぎた」


「あ? やりすぎた? もっとやりゃあよかったんだ。相手が先生だろうが、メラメラ燃やして灰にしちまえ」


「君らしい」


「うるせぇんだよ。オレは20秒でタイフーンを焼き焦がす」


 ブレイズの声はいちいち大きいので、俺たちの会話はみんなに丸聞こえだ。


「スキルは使えないからな」


 一応くぎを刺しておいた。

 ブレイズなら躊躇なく炎を先生にぶつけそうだ。別に俺に関係のあることでもないが、ブレイズとは正々堂々と戦いたい。


 不思議だ。


 俺自身、あそこまで目立たないことにこだわっていたのに、今では誰よりも目立っている。

 もっと不思議なのはそれが特に不快でもないことだ。


「そんなことくらいわかってる」


 ブレイスは俺をしっかり睨んで、お前は敵だからな、ということを改めて伝え直すと、そのままタイフーン先生に近づいた。


「ブレイズくん、どうした?」


「次の相手はオレだ」



 ***



 ブレイズと先生の戦いはなかなか面白かった。


 それも、剣術の戦いなのにブレイズはほぼ剣を使わないからだ。

 殴る。殴る。とにかく殴る。

 たまにスキルを使って炎を投げるが、先生が風でその都度消していた。


「オーマイガー、炎ボーイは剣が嫌いなんだってよ」


「これは剣術なのか……」


「一応剣握ってるし、間違いでもないからな」


 かなり期待していたのに、いろんな意味でその期待を破ってきた。

 結局ブレイズは先生に勝てず。


 バカではないはずだ。


 今まで4か月くらい過ごしてきてなんとなくわかる。

 ブレイズは賢く、奇抜だ。


 だが今回は必要のない奇抜さが大きく出た。


「ブレイズくん、今回の反省点はわかってるね?」


「炎が足りねぇ」


「違う。もっと基本的なことだ」


「火力が足りねぇ」


「……」


 本人は特に笑いを意識したつもりなんてないだろう。

 それでも周囲は笑わずにはいられないやり取りだった。


 呆れてる生徒だっている。


 氷のスキルを持つフロスト・ブリザードは、まさしく氷のように冷たい目でブレイズを軽蔑していた。



 ***



 それから15人全員の剣術の試験が終わり、結果発表の時間だ。


 得点はタイフーン先生がいくつかの項目で細かくつける。

 その点数に応じて順位がつく、っていうわけだ。


 剣術の教師が採点すべきなんだろうが、1年生に構っていられるほど暇ではない、ということか。


 なかなか基準がわかりにくい気もしたが、タイフーン先生なら納得のいく点数をつけてくれるだろう。


 客席まで飛ばし、痛めつけたことで減点されてたりしてたら嫌だな。


「ジャックくん、すごかった。リリー、ジャックくんがそんな──剣が上手なんて知らなかったから……びっくりだよ」


「あ……ありがとう」


 神様を見つめるような目で見つめられると、少し動揺する。

 リリーは俺を圧倒するように褒め称えた。


 しまいには手を握り、興奮した様子で「すごーい! すごーい!」って。


 胸が俺に当たっていることも気にしてないのか。


「みんな、それぞれ面白い戦いだった。突風をぶつけてくる生徒もいれば、爽やかで綺麗な風を吹かせてる生徒もいた。いい風だったよ、みんな」


 タイフーン先生の笑顔は女子生徒に刺さった。


 眩しいほど白い歯。

 風であおられる爽やかな緑の髪。


「やっぱイケメンだよなー、タイフーン先生」


「確かに」


「あ、そうか。おれもそういう風の男を目指せばいいのか。想像できるぜ。爽やかな風を起こす、イケメン男子生徒ゲイル」


「……ゲイルは今のキャラのままでいいだろ」


「え、やっぱり?」


 からかうような顔で俺を見てくる。

 さっきのは冗談だったか。


 だが俺は頷いておいた。


「ゲイルはいいキャラしてる」


「嬉しいもんだなぁ、実は無能じゃない実力者ボーイ」


 あだ名が長い。


「じゃあ、今回の剣術実技試験、トップ3の発表だ」


 タイフーン先生が続けた。

 少し緩んでいた闘技場内の空気も、このひとことで急に引き締まる。


 ブレイズの目の中では炎が静かに燃えていた。その視線の先は俺だ。


 だが……どう考えても今回のブレイズはトップ3に入ってないだろ。


「第3位の生徒は……ヴィーナス・エレガント! おめでとう! 美しい戦いだった!」

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