第14話

ふつつか者ですが……の定番の返事をしてみたかったのに、



「う……うわぁーんっ」



私の口から出てきたのは、そんな子供みたいな泣き声だった。



ナオくんは私の憧れの台詞や指輪をくれたのに。



私はというと、何一つドラマのように上手くはいかなかった。



「ゆ、ゆづ……?」



ほら、ナオくんだって困惑して――



「俺との結婚なんて、そんなに嫌?」



困惑どころか、大きな勘違いをさせてしまった。



「……っ」



涙で言葉が詰まって出てこないので、大慌てで首を左右にぶんぶんと振る。



ナオくんが椅子を引いて立ち上がった音が聞こえて、私のすぐ隣に立ったのが気配で分かった。



「本当に? ゆづの旦那さん、俺でいいの?」



「……」



私はまだ言葉が出てこないので、両手の甲で涙をごしごしと拭いながら、今度は全力で首を何度も縦に振った。



――“ゆづの旦那さん”だなんて。



“俺のお嫁さん”といい、その響きだけでもう失神しそうなくらい嬉しいのに。



なのに、なんで私は泣きながら頷くことしか出来ないんだろう。



「ゆづ。いい加減、こっち向いて」



ナオくんの優しい声に呼ばれて、まだ涙でぐちゃぐちゃな顔のまま彼を見上げる。



「そんなに泣く程嬉しいの?」



「……」



黙ったまま、こくんと頷くと、



「ゆづがこんなことで喜んでくれるなら、もっと早く自分の気持ちに気付けば良かった」



辛そうに呟いたナオくんに、ぎゅっと強く抱き締められた。

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